#27 エリースFC東京 小宮敏裕 理事長 インタビュー Vol.2
-J3リーグには申込期限ギリギリで一気に申請するクラブが増えました。
小宮 「オラが村のJリーガー」って言うと、子供達が集まるんですよね。僕が一番嫌なのは、経営的に凄く問題がありながら、「上に行くぞ」と言って若い選手を集めておいて「経営破綻になりました」とか、「支援ができなくなりました」とか、一方的にスポンサーの都合で降りることがあった場合ですね。そうなると子供達が甘い言葉に吸い寄せられて、「生活はどうしているのか?」と尋ねると、「普段はアルバイトをしてサッカーで上を目指してけど、突然チームが解散となった」と。そういったリスクが凄く大きいんですよ。
-過去にそういったケースが多々ありましたね。
小宮 一方、社会人の選手はプロをきっぱり諦めて、就職してビジネスマンになっている。年を取って30歳くらいになった時に、高校を卒業してからの12年、あるいは大学出てからの8年の差は物凄く大きくなりますよね。それをどう考えているのか難しいですけどね。少なくともプロであるJ1~J3のクラブ幹部や経営者は、選手のセカンドライフまで考えていないですよね。当然ながら企業としての収益を目標とするわけですから、使えなくなった選手は解雇するわけです。例えば、ある上昇志向の強いチームは、一生懸命やって県リーグ3部からスタートしてJFLまで来ている。当時の選手って今は30歳手前くらい。今JFLで出ている選手は(当時の)半分くらいじゃないかなと思います。そこからJ3やJ2に昇格すると、ほとんど(当時の選手は)いなくなる。クラブは良いけど、選手はクビを切られちゃうからかわいそうですよね。J1やJ2のクラブからも(解雇になった)選手が、J3に雪崩のように落ちてくる。だから余計に今の若者が心配になりますね。
-エリースFC東京は、そういうクラブとは一線を画していますね。
小宮 スペイン人を駄目にする3要素は【サッカー、闘牛、フラメンコ】だと言われています。もう夢中になって仕事も手につかないんでしょうね。人間って弱いから快楽の方にどうしても走るじゃないですか。エリースの選手をスカウトする時は、社会人として、クラブの一員としてやってくれるかどうか。凄く重視しているのは、やはり人間性です。受け答えはきちんと出来るか、約束は守れるか。そういう事をしっかり出来るかが物凄く大切で、どんなにサッカーが上手くても危ない人には来て欲しくない。チームワークを乱す人は来て欲しくないです。
-生涯スポーツとしてのサッカーという考え方は、いつからこのクラブに芽生えているのですか?
小宮 NPO法人になったのが2006年なんですけど、その前後でしょうね。エリースには「生涯スポーツ」と「社会貢献」という2つの軸があります。社会貢献についてはチームの役員にもよく言われるんです。「俺達は社会貢献しているのか?」と。若い選手達を社会人として育てる。就職させてエリースでサッカーをやる。奥さんと子供がサッカーを見に来る、パーティに来る。そういう事ひとつひとつが社会貢献だと思うんです。お金を儲けているわけではないし地味な活動だと思います。社会貢献と言うと、例えば東北に行ってボランティアしたり寄付したりというイメージがありますよね。勿論それも大事な事ですが、僕らだって社会貢献はしています。
就職出来ないでいる選手も何人かウチにいて、アルバイトをしていました。1年間はアルバイトでも良いけど、2年目はダメだよと。1年目のうちに就職しないとズルズルいっちゃうから。アルバイトは楽だしサッカーも楽しいし、体のキレも良いじゃないですか。ところが9時-5時の一般のサラリーマンになると残業もあるし、普段練習が出来ない。そうすると衰えますよね。
でも土日に一生懸命やるわけですよ。だから、そこはズルズルいかずに1年でアルバイトは辞めてちゃんと就職しようと。僕らもどういう所に行きたいのかレクチャーするんですよ。今年も2人くらい就職しましたね。超一流会社には入れなくても、やはり1年以内に就職させるのが目標で、日本人をスペイン人の様にはさせたくないですね(笑)