#20 FC町田ゼルビア 楠瀬直木 強化・育成統括本部長 インタビュー Vol.2
-個性のある選手が少なくなった事に関して、育成年代に携わってきた者として思う事はありますか?
楠瀬 現場では、だんだん『上手い!』っていう選手がいなくなりましたよね。ただ、そう判断するには、指導者達も上手いという感覚を身につけていないとね。今はみんな、本当にトップレベルの試合を見ていますから。バルセロナだ、バイエルンミュンヘンだと。それは確かに凄いんですけど、「じゃあ、そこでプレーする為には、何をすれば良いの?」なんですよね。
-そのあたりで何か取り組んでいる事はありますか?
楠瀬 今は、各学年が同じようなサッカーをしちゃうから、そこを変えているところですね。もしかしたら、その『上手い選手』には、色々な意味でマイナスな部分があるかもしれない。例えば態度が悪いとか、決して優等生じゃないとか。でも、それを埋めてやるのが僕らスタッフの仕事。戦術も教えるんだけど、それだけじゃないですから。
「子供達が『一緒にやってきた仲間と青のユニフォームを着て戦いたい』という夢や想いを持てるか」
-サッカー以外の部分にも気を配れるかですね。
楠瀬 そういう上手い選手が、もし各学年に一人ずつでも出てくれば、『ゼルビアの選手って上手いな』となりますよね。対戦した相手に『この選手からボールは獲れないな』と言わせたいですよ。『試合は勝ったんだけど、あの選手からボールは獲れなかった』とかね。そういう点ではヴェルディ時代と比べて、方法論も何もかも違うと思いますよ。逆にヴェルディには強くあって欲しい。行ってもボール獲れないし、行かなきゃどんどん仕掛けてくるし、と。そういうチームが近くにあればあるほど、周りが強ければ強いほど、やっぱり燃えますから。
-ゼルビアで育成していく中で、例えば高校進学時に市内から他の地域へ流出してしまう現実もありますが?
楠瀬 それはもうしょうがないでしょう。僕もジュニアユースの保護者との話し合いで言っています。「良い大学に行けそうだったら、行かせたいとお考えなら、それはそれで仕方ありません」と。強豪校に呼ばれれば、学費も免除されますし、選手権に出られれば、大学も選べる。ここのユースはまだ、プレミアリーグにもプリンスリーグにもいるわけではありませんから。ここでサッカーを頑張ったとしても、勉強も頑張らないと大学には行けません。サッカーだけでどうにかなるわけではなくて、勉強もやらなきゃいけない。良い大学に行きたいんだったら、勉強もしないといけないから大変ですよと。ただ結果云々ではなくて、子どもが『やっぱり一緒にやってきた仲間とやりたい、スクールの時から教えてくれていたコーチ達とやりたい、青いユニフォームを着てみたい』といった想い、夢を持ってゼルビアに残ってくれるんだったらウェルカムですよ、という話はしています。
-子ども達が「このクラブに残りたい」と思えるアカデミーにしていきたいですよね。
楠瀬 流出は止まるものでもないし、『隣の庭って良く見える』と言いますが、逆に町田以外から来てくれる子もいます。ヴェルディやマリノスといった老舗クラブのように、「いつか緑のユニフォームを」「トリコロールのユニフォームを着てみたい」と子ども達の憧れになるには時間がかかります。「青いユニフォームを着てゼルビアでやりたい!」という風になるのは、まだまだこれからだと思うんですよね。『流出』というと出ていく子が後ろめたいニュアンスですが決してそうじゃない。それは羽ばたいているんですよ、「この町から飛び出していけ」ってね。それでウチが強くなって呼び戻せるようになって、「帰って来い」と言う事が出来れば素敵だなと思います。