#19 FC町田ゼルビア 楠瀬直木 強化・育成統括本部長 インタビュー Vol.1
-東京ヴェルディは2010年に破綻しそうになり、FC町田ゼルビアは昨シーズンにJFL降格となりました。そういったクラブの事情に育成組織が左右される事はよくありますか?
楠瀬 もちろん、ありますよね。だけど、それを簡単に「(トップが)負けたから下にこんな影響がある」とかではなくて、上のマイナスが下のマイナスにならないようにしたいなと思うんです。(J2から)JFLに落ちて、Jリーグの待遇は確かに減ったんですよ。支援金が無くなったとか、(ユースの)大会参加費もそれまではJが負担していたのが自己負担になったとか。
-まず、JFL降格でJリーグからの支援金が減ってしまった、と。
楠瀬 そういうのはあるんですけど、例えばトップチームが負けてのマイナスの影響は、お客さんが減る事とか企業スポンサーが減る事。スポンサーは宣伝の為にお金を出してくれているから、試合に勝って(スタジアムに)何人に見てもらえるかですよね。 『何人に見てもらえるか』というエンターテインメントで考えた時に、今、スタジアムに来ている人の大半は、J2だろうがJFLだろうがウチを見に来てくれていますよね。
「街の人達に、いかに喜んでもらえるか、楽しんでもらえるか」
-JFLからJ昇格、再びJFL降格しましたが観客減とはなっていません。
楠瀬 タオルマフラーを振って、応援してくれて、負けたら『このヤロー』ってなってね(笑) 結局「スポーツ、サッカーって誰のもの?」ってなった時に、僕は「このクラブは、選手と子ども達とその家族、街の人達のものだ」と思っているんですよね。
-「クラブは誰のものなのか?」という根本的な部分ですね。
楠瀬 だから『秋田サッカー』とか、『楠瀬ゼルビア』とかではなくて、その人達にいかに喜んでもらえるか、いかに楽しんでもらえるかが大事なんです。トップが負けようが『あの近所の子が出ている』とか、クラブってそういうもの。ゼルビアを応援してくれる人達にもっと良い思いをしてもらいたいから、もちろん勝って結果は出したいよね。
-だから「より強くなりたい」とも思うわけですよね。
楠瀬 例えば、2013シーズンもJ2に残っていたらガンバ大阪と戦えたんですよ。この街に遠藤(保仁)が来るわけですよ。そんな相手と、(町田の地元の)知っている子達が戦うわけですよ。そうやっているうちに、ゼルビアから日本代表選手とか出てくれば、今度は日本代表の青いTシャツを着ながら応援出来る。それがサッカーの良いところだし、そういうものを提供していきたいですよね。
-J2残留していたら「日本代表選手と地元の子が戦えるんだ」という事も見せられたわけですよね。
楠瀬 だから、トップの勝敗に関係するというのも多少はある。でも根本は、「次のユースからはこんな奴が上がってくるかもしれない」とか、ココ(練習グラウンド)に来ている人はみんな知っているんですよね。ユースの応援にも来てくれるから。人数は少なかろうが、こういう所からなので、素質はあるんですよ、このクラブ。勝敗に関係なくクラブというのは50年、100年と続いていくものだから。ずっと続けていけるベースを、今は作っているところ。上の勝敗が関係ないわけじゃ無いですけどね。
-このクラブには、トップの勝敗以外でも成長していける要素があるという事ですか。
楠瀬 結果っていうのはどうせ出るんですから、日本一になった所で終わりではない。上にはアジアチャンピオンズリーグがあってクラブワールドカップもあるんだから。まだチャンピオンズリーグまで遠いけど、長い道のりだから良いですよね。もうFCバルセロナみたいに先っぽにいたら大変ですよ。先頭は遠い所にいるけど、一つ一つ追いつくので、十分楽しんでいますよ(笑)