第22回 なぜFC東京なのか(後編)
一方、山中さんはFC東京についても手厳しかった。
「FC東京も伸び悩んでいます。チーム力、観客動員の両面でね。原博実さんが監督をされていたときに急成長して、それ以降はほぼ変わっていない。突き抜けるものがないんですね。足りないのは、クラブ全体の問題。プロクラブとして一流になっていない。個々のスタッフはそうなりたい気持ちがあるのでしょうが、現実は追いついていません。たとえば、東京ガスの方が出向してくるのはいいとして、外の血も入れる工夫をしないと。育成の指導者も引退した選手が務めるケースがほとんどです。一度は外に出し、勉強させて戻すほうがベターなのでは。ファミリー的な部分を大切にするのはわかりますが、サッカーは世界との競争。日本ローカルの考え方にとどまり、仲間内で固めようとするのは甘いですよ」
後半、FC東京は高橋秀人とルーカスのゴールで2点奪取。清水の反撃をゼロで抑え、完封勝利を飾った。河野の出番はとうとう訪れなかった。私はFC東京に移籍した河野がプレーする姿を、テレビでさえまともに見たことがない。やはり、少しは気になる。
試合後、山中さんは「東京の仲間に引き合わせることもできるよ」と言ってくれたが、この日は帰らせてもらうことにした。話はとても楽しかったが、身体の芯がぐったり疲れている。私にとって、元気いっぱいのFC東京は負荷が強すぎた。なお、山中さんは新宿ペーニャ(ファンの拠点)に属し、そこに主だった知り合いがいるそうだ。「平均年齢が上がっちゃってさ。おそらく40歳を超えている。若いのを引っ張り込まないといけないよね」と笑いながら話した。まったく同感だ。あそこに行けば面白いことがありそうだぞ、と思わせることができなければ寄ってこない。
今回、大沼さん、山中さんのおふたりと会い、奇しくも一致したのは「FC東京の勢い」と「ヴェルディはいい若手が出てくるわりに定着しない」ということだった。前者はいまいちはっきりしない印象もあるが、この感じがリアリティだなぁと思う。サンプル数を増やして統計を取るつもりはないので、ぼんやりしていても一向に構わない。だいたい、好きになった理由なんて明確に説明できるものではなく、後付けのほうが多いのではないかという気がする。
後者については、おそらく東京Vのサポーターも実感している部分だと思われる。クラブの将来を背負って立ってほしいとの願いを込めて買ったレプリカシャツが、2年と続けて着られないとの嘆き節はそこかしこで聞かれた。流出する要因のひとつは、選手の人件費を入場料収入で支えられないことだ。だが、入場料収入をアップしていくには、人気と実力を備える選手をできるだけ残さなければならない。卵とニワトリの関係に近いが、どちらが先かといえば軸となる選手を定め、チームの骨格をはっきりさせるほうが先決だろう。どうバランスを取っていくかは、クラブの経営センスが問われる。過ぎたことは仕方ないとして、今後注視していきたいテーマである。
この度は「あちこちのクラブを見て回り、東京Vに行き着いた自分の話も聞いてほしい」などのメールも頂戴した。なぜ東京Vなのか。そっちのパターンもいつかやりますね。
(了)
(著者プロフィール)
海江田哲朗(かいえだ・てつろう)
1972年、福岡県生まれ。獨協大学卒業後、フリーライターとして活動。東京ヴェルディに軸足を置き、日本サッカーの現在を追う。主な寄稿先に『サッカー批評』『週刊サッカーダイジェスト』『週刊サッカーマガジン』『スポーツナビ』など。著書に東京ヴェルディの育成組織を題材にしたノンフィクション『異端者たちのセンターサークル』(白夜書房)。
海江田哲朗 東京サッカーほっつき歩記は<毎月第1水曜日>に更新します