#26 FC町田ゼルビア 秋田監督解任で楠瀬氏に託されたもの
連勝街道の先に待っていた茨の道
順調に思えた時間は永遠には続かなかった。第10節までの6連勝が途切れると、第11節以降の戦績は2勝3敗2分。勝利はいずれもアウェイで挙げている。そして気になる事もあった。第14節・Y.S.C.C.戦では先制を許しながら、エース鈴木孝司が同点ゴールを挙げる展開となる。
問題はその後だ。何でもないパスをミスしては相手に奪われ、それを繰り返した。焦る気持ちが味方との意思疎通を狂わせ、攻撃の構築もままならない。緩慢なプレーが目に付き、相手ゴールにはいつまでも近づけなかった。結果、勝つべき試合をドローで終える事となった。思うような展開に持ち込めず、自分達のリズムを見失い、そして勝利が手からこぼれていく。選手達は否定するだろうが、自信を失い始めていたのかもしれない。
第15節・Honda FC戦に敗れ、優勝戦線に残るためには絶対落とせない第16節・カマタマーレ讃岐戦では、チームはハイレベルなパフォーマンスを見せた。 「これまでで一番、守備の所で連動出来ていたし、頭の回転も速く良い判断が出来た試合だった」と、秋田監督も納得の勝利を掴んだ。
そして迎えたAC長野パルセイロ戦。「この試合の大切さは選手達もよく分かっている」(秋田監督)と言うとおり、まさに大一番であった。その試合でゼルビアは、“成す術なく”と言って良いほど完膚なきまで叩きのめされる。ゼルビアの選手は、それぞれがボールを持った際に孤立し、選択肢が少ないままのプレーを余儀無くされた。対照的にパルセイロは、エースの周りに複数の選手が常にサポートに来ていた。勝つためのプレーの質は、段違いだった。
試合後、パルセイロのある選手は、「ゼルビアがリトリートしてくる」事を事前に分析していたと語っている。自ら主体的にゴールを目指すのではなく、一度引いてブロックを作り、カウンターを狙ってくる。相手にはそう思われていた。もちろん、相手の分析が全て的を射ているとは思わない。だが、掲げる理想と直面する現実とのギャップがあった事も、認める必要があるのかもしれない。
メンタリティの注入は道半ばで…
ゼルビアというチームに、秋田豊という存在はうってつけの人物だったであろう。新卒の選手を多く獲得し、レンタルで呼んだ選手達も若手ばかり。能力はあっても経験に乏しい若武者達に、秋田監督の持つ“勝者のメンタリティ”を注入出来れば、チームにとって大きなプラスとなる。
新体制発表の時も、最後の試合となったパルセイロ戦後の監督会見でも、彼は“メンタリティ”という言葉を使っている。それが試合にどれほどの影響を及ぼすかを、秋田監督は知っている。アウェイで敗れた試合は一つもない。秋田監督の手腕が全てと言うつもりはないが、敵地で結果を掴んで来られたのも、彼がチームに植え付けたものが芽吹こうとしていた証ではないだろうか。
決して安定していたわけではなかった。解任の時期が適切だったのか、今はまだ誰にも分からない。一つ言えるのは、秋田監督の率いるゼルビアは道半ばで、“その日”を迎えたという事だ。