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第23回 ピッチの守り人

「僕なんか、駆け出しもいいところでプロっぽいことは話せないですよ。本当に何を知らなくて。それなのにいいんでしょうか」

栗平駅近くのパスタ屋で会った鈴木康之さん(22歳)は、ひどく恐縮していた。株式会社よみうりサポートアンドサービス(以下、よみうりS&S)に勤務する、社会人1年生。グリーンキーパーのルーキーである。本格的な夏はこれからなのに、すでに日焼けで真っ黒だ。

「この仕事に就こうと思ったのは、大学3年の12月に就職活動が始まって、いろんな会社を調べたんですけど、どれもあまりピンとこなくて。サッカー関係の仕事ができたらいいなと思ったんですね。幼稚園から高校までプレーしていました。プロになれたら一番よかったんですが、それはもう無理なので」

そこで、頭にぱっと浮かんだのが緑のピッチ、芝生に関係する仕事だった。幼い頃、畑仕事で汗を流す祖父の姿を見て印象にとどめていた鈴木さんは、スーツを着てオフィスで働くより、外で身体を動かすほうが自分の性に合っている気がした。そう思い立ってリクルート情報を調べたところ、グリーンキーパーの契約社員を募集している会社があった。

「仕事をするなら少しでも早く始めたかったので、『アルバイトでいいので面接してもらえませんか?』とお願いしたんです。それが去年の7月で、今年から契約社員として働くことになりました。主にヴェルディの練習グラウンドを担当させてもらっています」

グリーンキーパーは大学の農学部出身が多いそうだが、鈴木さんは経済学部の観光経営学科。観光業に興味を持ったのは、Jリーグが遠因となっている。

「Jリーグの試合を初めて観たのは等々力競技場。川崎フロンターレの試合ですね。川崎信用金庫主催の、かわしん杯という少年サッカー大会があって、参加チームはホームゲームに招待されるんです。その頃から父がフロンターレを応援するようになり、全国のアウェー遠征に連れられて行くようになりました。あちこちの土地を訪ねるうちに、社会科の地理がどんどん面白くなって。その地理好きが高じて、大学の学部へとつながっています」

鈴木さんは川崎市で育ち、自然とフロンターレを応援するようになったクチだ。ほんの少し前までは。

「僕、森(勇介)選手が好きなんです。2年前、彼がヴェルディに移籍し、自分もヴェルディのそばで働くようになったものですから。いまでは完全にヴェルディを応援しています。立川のお店でストラップを買ったのは、何かそういうシルシというか、形みたいなものが欲しかったので」

仕事で持ち歩くUSBメモリに、それはぶら下がっていた。鈴木さん、大歓迎だ!

なお、よみうりS&Sの業務は、東京よみうりカントリークラブ、川崎競馬場など幅広い。なんと、等々力競技場もそうである。等々力はJリーグ指折りの素晴らしいピッチであり、2010年にはベストピッチ賞を受賞している。ちなみにそのグリーンキーパーの方は、等々力の前はランドで芝の管理をしていたそうだ。アンチ・ヨミウリが多いだろう、川崎Fのサポーター諸君。皮肉にもそういうことらしいよ。

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