『いしかわごうのウルトラなる挑戦記』 第2回 侵入者を弾き返せ
第2回 侵入者を弾き返せ
いきなり説明からで申し訳ないが、本コラム内のタイトルは、ウルトラマンの第2話「侵略者を撃て」から戴いている。この第2話ではバルタン星人が登場する。バルタン星人というのは、ハサミみたいな両腕と、「フォッ、フォッ、フォッ、フォー」という笑い声が特徴的な怪獣だ。ウルトラマンの中では、おそらく最も有名な怪獣だろう。
ストーリーを掻い摘んで説明すると、自身の星を失った事で地球への移住を強行しようとするバルタン星人を、ウルトラマンが撃破するという話だ。自分達はどこを住処にして生きていくのか。そして自分達の場所をどうやって守っていくのか。そんな事をちょっとだけ考えさせられる回なのである。
クラブ史上初となる地元・大蔵総合運動場での公式戦開催
6月16日の愛媛FCレディース戦は、スフィーダ世田谷FCの地元・大蔵で初めて開催されたリーグ公式戦となった。小田急線の祖師ケ谷大蔵駅から徒歩で約20分。ウルトラマン商店街を通り抜けていくと、たどり着くのが大蔵総合運動公園陸上競技場である。競技場に到着し、J-COM応援番組の告知活動している入場ゲートをくぐると、目の前にはグラウンドが広がっていた。実にシンプルな作りだ。ところが、この日の大蔵総合運動場のピッチコンディションは、かなり劣悪な状態だった。ところどころ芝がはがれており、凹凸も目立つ。どう見ても、サッカーをするには不適切な状態である。
「・・・終わったな(笑)」
試合前日、このグラウンドの状態を確認した瞬間、川邊監督はそう思ったことを冗談まじりに明かしている。
さらに試合当日、早朝から降り続けている雨が追い討ちをかけた。褒めるところを探すのが難しいぐらいの状態である。そんなピッチコンディションでのスタートとなった。
とはいえ、これも現実である。スフィーダらしい足元で繋ぐサッカーをできないならば、それを受け入れた上で戦わなくてはならない。「序盤から長いボールを使っていくことを指示しました。低い位置でボールを奪われると失点につながる危険があるので、なるべく高い位置で起点を作ること」(川邊監督)
悪条件の中で、らしさを捨てて現実に向き合う
おそらく「スフィーダらしいサッカー」を一番披露したかったのは川邊監督だったに違いない。というのも、この日は初めてとなるホーム大蔵でのゲーム。すごく大げさにいえば「歴史的」とも言える一戦だった。その集客に向けて、選手が地域でポスティングでの告知活動をするなど、クラブも並々ならぬ力を入れていたのである。初めて足を運んでくれた地元の観客に向けて、日頃の練習で取り組んでいるスフィーダのサッカーを見せたかったはずだ。
しかしピッチコンディションを考慮し、足元でショートパスを繋いで局面を打開していくサッカーではなく、シンプルに縦に速くプレーする選択肢を優先させた。不本意だっただろうが、この判断は正しいものだ。理想と現実にどう折り合いをつけていくのか。いつも人生を悩ます問題だが、サッカーでもたびたび直面する問題なのである。
指揮官の指示通り、スフィーダはコンパクトな陣形を保ちながら、相手の陣地にロングボールを入れていく組み立てが中心になった。ただし、それは相手の愛媛も臨むところだったのだろう。ボールが互いの陣地を行き交う展開が続き、観客の視線もテニスのラリーを見るように左右に行ったり来たりしていた。
前半の問題点は、この「蹴り合い上等」の展開でスフィーダが後手を踏んでしまったことだ。いつものように後ろからの組み立てが難しかったとはいえ、どうにも試合のリズムを掴めない。奪ったボールを前線に当てようとしても、それが単調になりすぎてしまい収まらない。あるいは、こぼれたセカンドボールがことごとく相手のボランチに拾われる。その結果、中盤での主導権を愛媛に握られ、打開策を見い出せぬまま過ごす苦しい時間帯が続いた。