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『いしかわごうのウルトラなる挑戦記』 第2回 侵入者を弾き返せ

DF臼井の落ち着きが守備の安定をもたらす

それでも無失点で凌げていたのは、守備陣の頑張りがあったからだろう。守護神・川口真奈と、この日のセンターバックの岡田あやめと臼井理恵で固めた中央の3枚が、愛媛の突破をことごとく阻んだ。特に臼井のカバーリングと落ち着きは秀逸で、ピンチになりそうな匂いを的確に消し続けた。最も、やっている本人はヒヤヒヤだったそうだが。試合後、こんな本音を漏らしている。

「前半は後ろとしても苦しかったです。常に相手のボランチに前を向いてボールを持たれることが多かった。ロングボールを蹴ってスペースを狙ってくるのは分かっていましたが、二列目からも抜け出して来るので、そこを上手く捉まえ切れなかったですね。サイドにも速い選手がいて、そこでマークがズレてしまったり。守っている側としてはかなり怖かった。前半は本当に最悪でした」(臼井)

0−0のままハーフタイムを迎えたことが、その後の巻き返しにつながった。後半に向けた修正策として、川邊監督は相手のスペースを狙って崩していく攻撃を選手に意識させている。雨も止み、ピッチがやや乾いた状態になっていたことも幸いし、後半になると相手の陣形を揺さぶって、選手を左右に動かし続ける攻撃がボディブローのように効き始めた。

そして後半19分には、勝負カードとしてMF社納未樹とFW長澤優芽というスピードのある2人を同時投入。サイドでの仕掛けが機能し始めると、後半25分には、MF下條彩の左サイドの突破からゴール前の絶好の位置でFKを獲得した。そのボールに近寄っていったキッカーはボランチの冨山瞳。

12試合17ゴール 得点ランクトップFW森の嗅覚

「壁とDFの間がちょうど空いていて、7番の森選手と目が合いました。少しバウンドするようなボールを蹴ってゴールも狙っていました」(冨山)

冨山が蹴ったのは低い弾道のボールだった。直接入りそうな軌道だったが、これをFW森仁美がうまく触って角度を変えゴールネットを揺らした。

「冨山選手なので、あのへんに来ると思いました。目も合いましたね。思いっきり走り込んだらボールが来ました。触らないと怒られるな、と(笑) 合わせた箇所は右のアウトサイドですね」

決めた森はそう振り返っていたが、彼女の嗅覚も見事なものだった。

「嗅覚」というと感覚的に捉えられがちだが、「もし下條選手なら左足で巻いてファーに蹴ってくるイメージ。冨山選手だったら、チップキックで浮いて来るイメージがありました」と、キッカーの違いからボールの質を冷静に分析して、動き出しを変えていたのはさすがである。得点ランクトップは伊達ではない。

なお、このゴールにはこんな裏話がある。キッカーは冨山だったが、この位置のFKは下條が任されることが多い。ただ下條は自分で獲得したFKでありながら、この時だけは冨山に譲っていたのである。なぜか。

「それまでも2本ぐらいバーに当てていたので今日はなんか(ボールが)浮いちゃうと思ったんですよ。だから、トミさんに蹴ってとお願いしました。トミさんは頭が良いですね。あの位置だったら自分は(直接ゴールを)狙ってしまいます。でも下の状態がよくないからこそ、そっちを狙った。『その手があったか!』と思いました」(下條)

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