#177 6/22 J3 第17節 FC町田ゼルビア vs AC長野パルセイロ
後半に入ると、前半以上に攻勢を強めて行く町田。しかし後半16分に、カウンターからひやりとする場面を作られてしまう。元町田の勝又が見事に合わせて長野先制か? と思われたが、運も町田を味方したのか、このシュートはポスト直撃でまたも得点は生まれない。そして町田は前半から飛ばして来た木島に替え、ここでケガあがりの遠藤を投入するのだが、この交代が町田の勝利をグッとたぐり寄せることとなる。
開幕からレギュラーとしてチームを引っ張って来た遠藤だが、ケガにより戦列から一時離脱していた。だからこそ、一日も早い復帰を果たしたい、さらには試合にでて結果を残したいという思いが強かった。また、この日に賭けていた木島との交替が、さらにその思いを強くすることとなっていた。そして「J3ファーストゴールを奪った男」は、やはり「持っている男」でもあった。出場から5分後の31分、鈴木からのボールを受けた遠藤は右足で合わせて値千金のゴールを奪い取ったのである。
ゲームはこのまま1-0で町田が逃げ切るかと思われた。事実、最後まで長野の攻撃は噛み合ず、終始セカンドボールを支配されたままであった。だがアディショナルタイム4分を含めたラスト5分の猛攻は、やはり強さを感じさせると同時に、勝負への執念というものを強く感じさせた。大島も松原も最前線に上がってなりふり構わない攻撃を仕掛ける中で時計の針は進み、アディショナルタイム3分を回ったところで訪れたスローインからのリスタート。この流れからチャンスをつかみ、GK修行がパンチしたボールを宇野沢が頭で押し込んで、土壇場で長野が同点に追いついたかと思われた。だがやや不可解なオフサイド判定によりノーゴールとなり、タイムアップの時を迎え、町田は長野戦6戦目にして初勝利を掴んだのであった。
ラストの場面は確かに微妙でもあった。しかし、それを差し引いてもこの日の町田はすべての面で長野を上回った。相手にポゼッションをさせない鋭いプレスを前から90分間仕掛け続け、さらにはセカンドボールを奪い続けてゲームを支配。さらにベンチ入りしている選手も含めて、最後まで走り抜けるという、強い意識を持ち続けていた町田。そんなゲームであったからこそ、試合後の美濃部監督はノーゴール判定に対して異議を唱えるのではなく、J3というリーグであっても胸を張れる試合をやれた事への感謝を語りつつ、そして素直に今の町田と長野の差を認め、完敗であり良い意味で「チームに課題を与えてくれた」とコメントを締めくくってくれた。
今の時点での完成度は町田の方が上だったということが証明されたこの試合。相馬監督に対しては「お見事」という言葉以外にはないだろう。一時は方向性を失ってしまい、どうなってしまうのだろう?という心配もあった。だが相馬監督が復帰してから、原点を見直す、そしてシンプルにやろう、最後まで走り抜くを掲げ、今ここに完全復活を遂げたと言っても過言ではないパフォーマンスを見せてくれた。
そんな町田に対して敗れてしまった長野だが、この試合の結果を受けて「弱い」「方向性がおかしい」と決めつけるのも早計であろう。仮に、あのゴールが得点と認められていれば、長野の驚異的な粘りクローズアップされたかも知れない。また、この両者の戦いには相手の動きを研究して…ということよりも、自分たちの良さを出して相手を上回ろうという意識の方が高いため、この日の様に、優劣がはっきり分かる試合になるのである。
J3リーグは、いまだに手探りなリーグであるのだが、そんな中でもこの2強対決は小細工無しの真っ向勝負が見られることが醍醐味なのではないだろうか?勝ち点差こそ5に開いたが、まだまだ両者の差は僅かであることには変わりはないし、これから先も両者のマッチレースが続いて行くJ3リーグ。この日は結果的に町田が長野を上回ったが、8月に長野ホームで予定されている3戦目がどうなるかは全く予想がつかない。町田が長野に勝利したことで、さらにこのリーグがおもしろくなって来たと言えるだろう。
(了)
(著書プロフィール)
市川伸一(いちかわ・しんいち)
1971年、埼玉県生まれ。NHK番組制作スタッフ、グラフィックデザイナー、雑誌・web編集者を経て、現在はフリーライターとして活動。ザスパ草津チャレンジャーズを中心に、JFL、地域リーグなどマイナーサッカー界中心に取材を続ける。これまでの主な寄稿先は『スポーツナビ』『J’sサッカー』『エルゴラッソ』など。