TOP>>インタビュー>>issue-interview>> #32 日本フットボールリーグ 加藤桂三事務局長 インタビュー

#32 日本フットボールリーグ 加藤桂三事務局長 インタビュー

-今回昇格見送りとなったチームの中で、来季以降の躍進を期待しているクラブはありますか?

加藤 サウルコス福井とヴァンラーレ八戸を比べた時に、ものすごい差があったという訳ではないんですよね。ただ、我々も視察で各クラブを廻りましたが、八戸の盛り上がりは他の候補と比べた時に大きな差があり、街の人の盛り上がりだけではなく、市長もクラブに対する支援に積極的だったことは、選考の際の大きな決め手になりました。ただ、スタジアムという点ではテクノポートがある福井の方が良いなど、選考ポイントにおいてプラスもマイナスもありましたが、別に八戸の競技場が基準を満たしていない訳ではない。だったら、やはり盛り上がりという点でそっち(八戸)を選ぶことになったと思います。

まあ、福井に関しては佐野さん(佐野達GM兼監督)が先頭に立って頑張っているので、来年は昇格候補に間違いなく上がってくるだろうし、すぐにでもJFLの仲間になると思いますし、逆に言えば近い将来必ずJ3の仲間になっているかもしれません。またFC大阪も力はあると思います。でもね、あそこは若干この先の方向性が決まって無いんですよ。とりあえず、企業チーム的な存在としてJFLに昇格して、(地域の盛り上がりを含めて)機運の上昇を見計らって、その先を目指したいという意向を持っているみたいなんですが、やはりこちらとしては、しっかりとしたビジョンがあったり、(スポンサーのみならず、サポーターを含めた)力強いサポートのあるチームの方が安心感もあるので、今回は選考から漏れてしまいました。ただ、今の実力をキープしていれば、福井と並んで有力候補であることは間違いないでしょうね。

あとはやっぱり流通経済大学かな。今回も積極的に手を挙げてくれたし、リーグにいたときには、このリーグで戦ったことが選手の成長に繋がって、何人ものJリーガーを輩出することができたので、ぜひとも、これから先も挑戦して欲しいと思いますね。

先日行われた記者会見後に、話を伺った内容はこんな感じであったのだが、やはり今回の「審査」において、一番のポイントとなったのは、地域リーグ決勝大会での4位以下の成績ではなく、お金を含めた「総合力」という点であったこと。そして単純に力だけで判断するのではなく、JFLという「アマチュア最高峰のリーグ」であるというアイデンティティーを守りたい、そして近年経営立て直し策の一貫として、企業スポーツクラブがサッカーのみならず休部に追い込まれるところが続く中で、その光を守りたいという協会、リーグの意向が大きく反映された結果となったといえるだろう。

そして取材とは別の雑談の中で出て来たことだが、加藤事務局長も『JFLの面白さとは、やっぱり企業チーム、クラブチーム、Jリーグの育成組織、Jリーグを目指すクラブ、大学生など、本来なら交わらないはずの者同士がぶつかり合う面白さ、そしてやろうとするサッカー、目指す到達点の違う者同士が見せる違いを見られることが、このリーグの一番の魅力なのでは』と話してくれているのだが、まさにその考えには同感する部分がある。

Jリーグとは資金規模の違いにより、強いチームとそれなりにチームに分かれるが、目指すスタイルにそれほど大きな違いはないし、明確に『このリーグのカラーとは?』を答えられる人は実は少ないのではないだろうか? だがJFLでは、大学生vsJ準加盟クラブや、企業チームvsJ育成組織という試合では、どんな試合になるのだろう? と展開が読めないことで生まれる面白さも存在しているのだ。そうJFLのカラーとは、ごちゃまぜの中から生まれる「カオスな面白さ」なのではないだろうか?

また、かつてJFLで隆盛を極めたSAGAWA SHIGA FCが、ごもっとも名目こそついているものの、結論的には「事業整理」の名の下で休部に追い込まれたり、休部とまでは行ってはいないものの、アマチュアの雄としてJFLを牽引してきたHonda FCやソニー仙台FCも、かつてのような手厚いサポートという訳にはいかない状況の中で活動を続けている。このように、企業スポーツや、アマチュアスポーツというものを運営していくことが難しくなりつつある昨今だが、JFL側もなんとかその伝統を守ろうと必死に頑張っているし、そんな時代の中で、あえて上にチャレンジしようとしたマルヤス工業のような存在が必要だったのである。

実力だけで数合わせをしてしまえば、それこそJ3リーグの「登竜門」という位置づけになってしまうJFLだが、出発点は「アマチュア最高峰のリーグ」であり、そしてなによりもカオスな面白さが消えてしまっては、このリーグの存在価値が半減してしまうと言っても過言ではない。

だからこそ、来年以降はマルヤス工業に続く『企業スポーツの星』が出て来て欲しいし、さらには大学勢やもっと違うカラーを打ち出す異色の存在の登場を待ちたいところでもある。

(了)

(著書プロフィール)
市川伸一(いちかわ・しんいち)
1971年、埼玉県生まれ。NHK番組制作スタッフ、グラフィックデザイナー、雑誌・web編集者を経て、現在はフリーライターとして活動。ザスパ草津チャレンジャーズを中心に、JFL、地域リーグなどマイナーサッカー界中心に取材を続ける。これまでの主な寄稿先は『スポーツナビ』『J’sサッカー』『エルゴラッソ』など。この他にも、グルメ情報サイトや中古車情報誌など、他分野においても活躍中。

◆前後のページ | 1 2 3 |