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第26回 変わりゆくサッカーメディア

「やったよ、俺たち!」

――このご時世、ツイッターやフェイスブックの反応が伝わり、売上げの目安となるものですか?
B 「いや、それは売上げの実数を見るまでは」
A 「ツイッターの反応が良くても数字が出ないことはよくあります。そこまでは信頼できない」
B 「たとえば、製作段階で手応えがあっても、売れないときってたくさんあるんですよ。『やったよ、俺たち!』って充実感を覚えても、まるで数字に表れない」

――これは面白いぞと作っても売れない。
A 「編集部内で盛り上がり過ぎた企画は案外売れない」
B 「そういうときは完全に内輪受け。顕著なのが、クイズ号でしょ」 特集『Jリーグ15周年 検定クイズ200問』NO.949/2008年5月20日号。
A 「あれ、すっごい張りきったよな。2週間くらいかけて一生懸命作った」
B 「異常に盛り上がって、解答は袋とじにしちゃおうぜ、となってね」
A 「おう、ダイジェスト史上初の袋とじだと」
B 「いやー苦労はしたけど、楽しかった」
A 「ところがね」
B 「まったく売れない!」
A 「うん、全然だった」

――これから週刊のサッカー専門誌といえば、ダイジェストになるわけです。来年からJ3も始まりますから、大忙しですよ。
B 「さしあたって大変なのが、選手名鑑でしょうね」
A 「どうするかは、ナイショです」
B 「はい、ナイショです」
A 「ダイジェストに期待してくださる方々もいるでしょうから、それに応える誌面を作っていかないと。中身で他誌に負けるわけにはいかない。ブランド力を高め、これまで以上に質の高さを追求していきます。『なんだ、やっぱ週刊ダメじゃん』と読者からそっぽを向かれたら終わりですから。将来、デジタル化の流れが加速し、タブレットで雑誌を読むのが当たり前になったとしても、紙で売れるものを作れなければデジタルになったところで買ってもらえない」

私には、ダイジェスト編集部にまつわる好きな話がある。十数年前、週が明けるときまって、とある男性読者から「ブンデスリーグ2部の結果と順位を教えてほしい」という問い合わせの電話が掛かってきたそうだ。そこで、手の空いている人が親切に対応していたという。インターネット普及以前、海外サッカーの情報を知る手段は限られていた。2部の情報など専門誌にも載っていない。くだんの男性は、ほかに手立てがなく編集部に頼ったのだろう。

「名物おじさんだったね」
「つくづく、ヘンなおっさんだった」
「クソ忙しいときに電話を受けてしまい、参った」

当時を知る編集者は口々にめんどくさかったと言い、でもその顔は楽しげで、どことなく愛おしそうに語るのである。それは雑誌と読者の蜜月時代だった。遠くに去って久しく、戻ってはこない。ふと気づけば、電話は掛かってこなくなっていた。それがいつだったか誰も憶えておらず、マニアックな読者がいたという逸話だけが残った。

テクノロジーの進化により、誰もが世界中のサッカー情報に気軽にアクセスできるようになった。と同時に、自分が消えてほしくないと思う物は、買い支えなければいけない時代でもある。『月刊J2マガジン』が好調の理由は、ここに一端があるに違いない。今後、月刊化するマガジン、週刊を貫くダイジェストがサッカーファンに何を提供していくか。市場の判断はシビアだ。それぞれサッカー観戦の友として、そばに置いておきたいと思わせるだけの存在価値を示さなければならない。

(了)

(著者プロフィール)
海江田哲朗(かいえだ・てつろう)
1972年、福岡県生まれ。獨協大学卒業後、フリーライターとして活動。東京ヴェルディに軸足を置き、日本サッカーの現在を追う。主な寄稿先に『サッカー批評』『週刊サッカーダイジェスト』『週刊サッカーマガジン』『スポーツナビ』など。著書に東京ヴェルディの育成組織を題材にしたノンフィクション『異端者たちのセンターサークル』(白夜書房)。

海江田哲朗 東京サッカーほっつき歩記は<毎月第1水曜日>に更新します

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