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第26回 変わりゆくサッカーメディア

「しょうがねえのかな」

JR水道橋駅近くの喫茶店。私とその人はコーヒーとアイスティーを飲みながら、どうにも盛り上がらない話をしていた。

「内容が良ければ売れるんですよ。ドラマだって、そうじゃないですか。『あまちゃん』『半沢直樹』、いいものはヒットする。インターネットで手軽に情報が入手できる時代、ずっと昔から言われている出版不況、そんなのは言い訳になりません」

彼は『週刊サッカーマガジン』(株式会社ベースボール・マガジン社、以下マガジン)の編集者だ。マガジンは日本におけるサッカー専門誌の草分けである。創刊は1966年5月。当初は月刊で、隔週刊を経て、1993年10月から週刊化された。そのマガジンが11月から月刊になるという。ちょうど、Jリーグが人気回復・収益確保のテコ入れに、2015年から2シーズン制+ポストシーズンの導入を決めたばかりだった。これと相まって老舗専門誌の月刊化のニュースは、大きなインパクトをもって迎えられた。

「少し前、お世話になっている執筆陣の方々や担当チームの広報さんに連絡しました。業界の人たちは『残念だけど、しょうがねえのかな』という反応が多かったですね。いまに始まった話ではなく、2010年の南ア(FIFAワールドカップ南アフリカ大会)の頃から、体制変更の噂話はチラホラあったんです。もし日本代表が惨敗したら、週刊で出せなくなるかもしれないぞと」

コーヒーは酸味が程よく効いて美味かった。が、苦みが舌に残って消えない。こうやって話を聞かせてもらうことに同意を得て、わざわざ時間を割いていただいたのに、いざ会ってみると、どんなふうに話をすればいいのか困っていた。廃刊ではないのだし、そこまで残念がるのもおかしい気がした。

とりあえず、私の感じていたことを話してみることにした。マガジンをパラパラめくって、「おっ」が少ないように思ったのだ。「おっ」はいろんな種類がある。「このインタビューの人選はシブすぎる」「こんなデータ、よく発見して調べたなぁ」だったり、「くっだらねえ。けど笑える」のときもある。一方で、それは私自身の問題かもしれないとも思った。何年も読み慣れているうちに、どれもありふれた企画に映り、感度が鈍くなっている可能性は否めない。それに、ビギナーはいつの時代にもおり、老舗の安心感、変わらない味を好む人も一定数はいる。

「いえ、わかります。足りなかったのはアイデアとか、思い切りの部分。もっと面白いことをやろう、もっと読者を驚かせてやろう。そういった姿勢を欠いていた。ほかの人がどう考えているかわかりませんが、僕はそうだと思います」

彼は愚痴っぽいことを一切言わなかった。編集部の先輩に対して、あるいは会社の上層部に対しても。また、彼はスポーツ全般を扱う出版社の編集者であり、部署異動は珍しくない立場だ。サッカーは好きだが、さまざまなスポーツの現場に赴き、取材や編集のスキルを磨きたい気持ちもある。

唯一、明るい材料と話したのは、今年8月に創刊された『月刊J2マガジン』の好調だった。

「1号目の刷り部数はけっして多くありませんが、8割5分売れました。2号目は1.5倍刷って、それでも7割は売れています。これにはヒントがあると思いますね。ある人が『J2には一体感、仲間意識がある』と。特に全国誌で露出の少ない地方のクラブのファンに喜んでいただき、こちらの思いも汲んでくれたように感じます」

週刊体制のマガジン編集部は解体されるが、『月刊J2マガジン』は編集部を立ち上げ、現在の増刊扱いではなく正式に月刊化するそうだ。今後、彼がどちらかのサッカー誌に携わる可能性はあるが、まだ見通しがついていないという。

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