『いしかわごうのウルトラなる挑戦記』 第4回 多摩川クラシコから考える“東京”
第4回 多摩川クラシコから考える“東京”
現在、チャレンジリーグ4位(8/25 第18節 終了時)につけるスフィーダ世田谷FC。今シーズンのなでしこリーグ(1部)昇格を懸けた戦いも、いよいよ佳境に入ってきた。
「今月(8月)のスフィーダのホームゲームは・・・」とリーグ戦の日程を眺めていると、8/10(土)のジュブリーレ鹿児島戦だけだった。なでしこリーグ、チャレンジリーグは日曜日に開催されることが多いが、最近は土曜日が多い。そして、その日はあいにく、J1リーグの川崎フロンターレ vs FC東京がナイターで組まれていた。
むむむ・・・と思い、ハシゴ観戦が可能かどうか、キックオフ時間を確認すると、ジュブリーレ鹿児島戦が16時。試合が終わるのがだいたい18時、そこから監督や選手の取材後に夢の島から等々力競技場まで移動するシミュレーションをしたら、どう考えても19時のキックオフには間に合わない。試合途中で観戦を切り上げてハシゴをするのか、それともどちらかを諦めるか・・・どうする、どうする・・・。
結論から言うと、夢の島の取材は諦めて等々力取材を優先することにした。8月のスフィーダ唯一のホームゲームを取材できないのは心苦しいが、こちらの取材もやはり外せないからである。ということで、今回はいつもとは少し違い、ウルトラマンのテイストが無い挑戦記をお送りします。どうかご了承を。
「日本のやり方で、日本でしか出来ないやり方で、この国のリーグを盛り上げる」(天野春果)
スフィーダを諦めて取材した川崎フロンターレとFC東京のカードは『多摩川クラシコ』という名称で呼ばれている。なぜこんな名称かというと、多摩川を挟んで対峙するクラブの対戦に新たな伝統を作り出していこうということで、2007年から両クラブがプロモーションとして銘打ったのがきっかけだ。
もともと両者はJリーグ加盟前のJFL時代から激闘を繰り広げている因縁があった事は事実だが、スペイン・リーガエスパニョーラにおけるFCバルセロナとレアルマドリードの「エル・クラシコ」のような、誰もが認める伝統の一戦という“格”はまだ無い。おそらく「クラシコ」の名称を使うことにも周囲からの賛否両論はあっただろう。しかし「多摩川クラシコ」と銘打ったことについて、この企画者でもある川崎フロンターレのプロモーション部“名物部長”天野春果は、テレビ東京のサッカー番組「FOOT×BRAIN」に出演した際にこう言い切っていた。
「世界に色々なダービーやクラシコがありますけど、他の国の事はどうでもいいと思っている。日本には日本のやり方があるし、日本でしか出来ないやり方がある。もっと新しい考え方を持ってこの国のリーグを盛り上げていきたい」
こう力強く掲げてしまうところが、天野春果という人物の面白いところだ。そしてJクラブの中でも、独自路線を突き進む川崎フロンターレというクラブが行うプロモーションの強みでもある。実際、過去には多摩川クラシコだけでも奇抜なプロモーションを幾度となく行っている。多摩川を渡し船で渡る「船ツアー」や味の素スタジアムに隣接する調布飛行場に飛行機で乗り込む「エアーツアー」などなど。電車で済む距離なのに、あえて船や飛行機でたどり着く面倒臭さが良い。そしてこんな風に“あの手この手”で盛り上がって楽しんでしまうのが、川崎フロンターレを取り巻くサッカー文化の面白いところというか、変なところでもある。これが良いか悪いかは分からないが、天野部長の言う「日本にしか出来ないやり方」の一つはここにある気がする。多摩川クラシコに限らず、毎試合どんな奇抜なプロモーションを仕掛けてくるのか、取材している側の楽しみだったりする。
当然ながら、ピッチに目を向ければ、選手達はいつも真剣勝負の打ち合いをする。真っ向勝負過ぎて、過去の多摩川クラシコでは、5-4や7-0など殴り合いのスコアになる傾向もあるほどだ。この日も川崎フロンターレが先手を奪えば、FC東京がすぐに追いつくという展開で、結局2-2のドローで幕を閉じた。記者席で観戦するだけでも、身体にまとわりつく暑さにはホトホト参ったが、総じて見応えのあるスリリングなゲームだったといえる。こうして多摩川クラシコの歴史がまた一つ刻まれていった。