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第21回 なぜFC東京なのか(前編)

選ばれるクラブと、選ばれないクラブ

スタジアムでサッカーを見て学力が向上するのなら、受験生は漏れなく手近なクラブのシーズンパスを保有している。サッカーを見てお金儲けのコツが掴めるなら、起業家や経営者はスタジアムに足繁く通う。サッカー観戦があらゆる病気に劇的な効果があるのなら、患者は病院に行くことはない。そして、医者はダフ屋に職替えするか、地元でクラブを立ち上げている。そうなっていないのは、サッカーを見たところで成績は上がらず、卓越した経営センスが身につくわけでもなく、病の治療にはならないからだ。

では、なぜあれだけ多くの人々が週末のスタジアムに集うのか。人ぞれぞれの理由があり、サッカー観戦が趣味だったり、好きなチームを応援する使命感に燃えていたり、もはや習性になっていて理由が浮かばない人もいるだろう。なんだかんだ言っても、家でじっとしているより楽しいからだ。

そこに、もうひとつの問いを重ねる。人は、いつどのようにして特定のクラブに傾注していくのか。ファン・サポーターだと自認するのか。今年でJリーグ誕生から21年目、親の影響で生まれたときから○○ファンという一番搾り世代が出現しつつあるが、ほとんどの人は自覚的にそうなった人ばかりのはずだ。

ストレートに書こう。ここ1300万都市の東京では、なぜ東京ヴェルディではなく、FC東京のほうが人気なのか。私はそれが知りたい。この禁断の問いを表明するのが恥ずかしく、屈辱で、ぐだぐだと紙幅を費やしてしまった。13年も東京Vを取材していて、心当たりがないわけではない。ありすぎるくらい、ある。だが、今回はこれまで散々してきた自己批判の場ではない。

東京のクラブと地方クラブの大きな違いは、そこに選択が生じることだ。たとえば、住んでいる地域にJクラブがひとつしかなければ、選択の余地はない。この際、九州に住んでいるけど浦和レッズが好きというケースは話がややこしくなるので、除外する。東京の居住者でも、鹿島アントラーズのファンだったり、横浜F・マリノスのファンだったりするわけだが、そのへんを言い出したらキリがない。

とにかく、一方は選ばれ、一方は選ばれなかった。一方は受け入れられ、一方は拒絶された。意識的に選び取らずとも、一方にはきっかけを得てファンになるだけの魅力があり、一方にはなかった。これが東京のクラブの現実である。観客動員アップの成功例でよく言われるのが、サポーターがサポーターを呼ぶ好循環だ。ここ数年で東京Vの草の根運動は盛んになってきたが、歴史そのものは浅い。よそはそれ以上に蓄積があり、実行していると考えたほうがいい。自分たちはこれだけやっていると胸を張ったら、そこが天井だ。

東京におけるサッカーファン(Jリーグのファンと言い換えてもいい)の掘り起こしの絶対量が足りないということは考えられる。つまり、いくらFC東京がそこそこ人気だといっても、昨シーズンの1試合平均入場者数は2万3955人。1300万人も都民がいて、これを上出来の部類、あるいは妥当な数と言い切れるか。競合する娯楽が多数あるとはいえ、まだまだ足りないように見える。だったら、同年の1試合平均入場者数が5341人の東京Vはどうなるんだという話に展開され、私は口をつぐむしかなくなる。東京Vにとって都合のいいデータはどこを探しても見当たらないのが現状だ。

思い切って、FC東京のホームゲームに行ってみようと決めた。取材ではなく、観戦者として。チケットを買い、FC東京の試合を見るのは初めてだ。あっちにカネを落とすのはシャクだが、ぐっと堪える。

しかし、ここで疑問が浮上。東京Vの試合でいつも記者席にいる私は、実のところスタンドの様子や雰囲気をあまり知らない。過去、チケットを買って試合を見たのは、2回くらいだろうか。それではせっかく行っても、どこがどう違うのか比較のしようがない。

そこで、付き合いのあるヴェルディサポーターに助っ人を頼んだ。条件は、各々が自腹を切ること。そうでなければ、物見遊山に終始しかねない。行くからには、払っただけの何かを持ち帰るのが目的だ。

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