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第11回 静かなる人、叫ぶ

チームが強くなるために

2009年から2011年にかけて、タケルくんはこれまでにない苦労を味わった。

2009年、Jリーグ準加盟申請を行い承認されたが、平均入場者数やJリーグ基準のスタジアム確保の問題から、翌年のJリーグ加盟を見送った。2010年、相馬直樹が監督に就任。JFLで3位に入り、成績面の条件はクリアしながら、Jリーグ正会員入会予備審査でスタジアムの問題を指摘され、またも断念。この年、「町田ゼルビアを支える会」が発足し、タケルくんたちは署名運動などさまざまな活動を行っている。そうして2011年、ランコ・ポポヴィッチに率いられた町田はJFL3位に入り、諸条件を満たした結果、ようやくJ2参入が決定した。経緯については『FC町田ゼルビアの美学』(佐藤拓也/出版芸術社)に詳しい。

「本審査まで行けば大丈夫だと聞いてはいましたが、正式決定の知らせを聞くまでは気が気じゃなかったです。最後の最後に突っぱねられるかもしれないという不安があって、なかなか消えてくれなかった。あそこでまたダメだったら、J入りの運動を続けられたかどうか。サポーターを辞めるつもりはなかったですけど、だいぶしんどかったですから」

実はタケルくん、学者のタマゴである。大学の研究室に勤め、ただしその報酬だけでは食えないため、アルバイトで生計を立てている。「町田ゼルビアを支える会」の活動ではかなり無理をした。

それにしても、学者とゴール裏の住人はますます結びつかない。仕事でむつかしい専門書をめくる一方、週末は太鼓を叩いてガンガン応援している。この世には、そういう人もいるのだと私は知った。

「J2の厳しさは覚悟していたつもりですけど、本当に勝てないっすね。これまで町田は結果を出して上がってきたクラブですから、こんなに負けるのは経験したことがないんです。僕の理論では、まあ理論というほどたいしたものではないですが、チームが強くなるためにはお金が必要。まずはお金がクラブに入るように観客動員を増やしたい。そのためには、またスタジアムに来たくなるような楽しい雰囲気を作ったほうがいい。ギスギスした空気や殺伐としたゴール裏は、長い目で見るとチームを弱くすると思います。もちろん負けてヘラヘラできないし、ストレスが溜まりますけど、当面はそういったことを含めての応援なんです。サポーターもチームと一緒に成長するシーズンにしたい」

町田がホームゲームを開催する町田市立陸上競技場(通称・野津田競技場)は大勢の人々で賑わうようになった。タケルくんが応援を始めた頃とは、比べものにならない数の仲間がゴール裏にいる。

「もともと僕は先頭に立って何かをやるタイプの人間ではありません。過去にそういう役回りは一度もなかった。町田を応援し始めたとき、人から頼られてうれしかったんですね。さっきも話した通り、人が少なすぎて僕以外に自由の利く人間がいなかっただけなんですけど(笑)。そのへんは昔と同じかなあ。頼むよという気持ちには、できるだけ応えたい」

(了)

(著者プロフィール)
海江田哲朗(かいえだ・てつろう)
1972年、福岡県生まれ。獨協大学卒業後、フリーライターとして活動。東京ヴェルディに軸足を置き、日本サッカーの現在を追う。主な寄稿先に『サッカー批評』『週刊サッカーダイジェスト』『週刊サッカーマガジン』『スポーツナビ』など。著書に東京ヴェルディの育成組織を題材にしたノンフィクション『異端者たちのセンターサークル』(白夜書房)。

海江田哲朗 東京サッカーほっつき歩記は<毎月第1水曜日>に更新します

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