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『いしかわごうのウルトラなる挑戦記』 第5回 39分の秘密

第5回 39分の秘密

タイトルの「39分の秘密」は、ウルトラマン第5話「ミロガンダの秘密」より。オイリス島に生息する食虫植物ミロガンダが、放射線を浴びて突然変異を起こしたグリーンモンスが登場する回だ。

表現が適切なのかどうかはわからないが、スフィーダ世田谷FCの入れ替え戦出場の切符は、再開試合という「突然変異」のような試合の結果の末に掴んだものとなった。

9月17日火曜日のこと。雨天延期となっていたノジマステラ神奈川対スフィーダ世田谷FC戦の試合予定が、突然発表されたのである。

9月8日(日)に荒天により後半6分にて中断した第20節ですが、
その時点のスコアと残り時間を引き継ぐ形で再試合となりましたことを以下の通り御報告致します。
日時:2013年9月18日(水)20:00キックオフ
会場:ノジマフットボールパーク
備考:後半6分より2-0でスフィーダ世田谷リードの状態から再試合

15日の日曜日に行われたASエルフェン狭山戦後の時点では、このノジマ戦の扱いがまるで不透明だっただけに、正直、「そんな大事な試合を今日発表して、明日やるんかい」と、あまりの急転直下ぶりに面食らってしまった方も多いはずだ。とはいえ、発表された以上、やるしかない。幸いにも、その前日に入れ替え戦出場権を争っている福岡J・アンクラスが敗れたという条件も重なり、スフィーダにとってはこの再開試合で勝点3を加えれば、最終節を待たずに入れ替え戦出場が決定することが確定することとなった。かくしてスフィーダは、「運命の90分」ならぬ「運命の39分」を戦うことになったのである。

打ち切りとなる時間までの試合記録を取り消さず、後日、中断時点から再開した試合というのは、かなりレアなケースだ。サッカーは90分で行うスポーツであり、仕切り直しの試合を行うときは、90分の再試合になることが多いからである。Jリーグでも再開試合というのは、2009年のJ1・第25節と2012年のJ2・第13節の2試合しかない。

ちなみに筆者は、Jリーグ初めてとなった2009年のJ1再開試合を現場で経験している。そのカードは、カシマスタジアムで行われた鹿島アントラーズと川崎フロンターレの試合。奇しくも、首位・鹿島と2位・川崎の天王山として注目された一戦だった。

試合はFWチョン・テセの2ゴールなどで川崎が後半途中まで3-1でリード。しかし74分、集中豪雨によるピッチコンディション不良のため、試合が一時中断し、結局、約30分の中断の末、続行不可能と判断された。直後の場内のオーロラビジョンでは「ノーゲーム(90分の再試合)」とアナウンスされて川崎側は一時騒然となったが、その後、川崎側が異議を唱えたこともあり、後日の理事会を経て中断時点からの残り16分を行う再開試合が開催されることになったのである。

その再開試合は10月に行われた。

平日のカシマスタジアムに、16分だけのために取材しにいくのは、けっこうしんどいものだ。どうせスコアは3-1のまま終わるだろうと思っていたら、鹿島陣内からのフリーキックから始まった再開後のファーストプレーで、もっとも警戒していたDF岩政大樹にヘディングゴールを決められて3−2となり、記者席からズリ落ちそうになった。

一気に勢いづく鹿島は、この16分間にフルパワープレーで川崎を完全に押し込み続けた。結局、それを必死にクリアし続けた川崎が3−2で逃げ切ったのだが、バーを叩く決定機もあるなど生きた心地のしなかった16分間だった。普段の90分で使うスタミナの全てを残り時間に注いでくる分、再開試合というのは、普段とはまるで違うサッカーがピッチで展開されるのだ。試合を終えた川崎のDF森勇介(現・東京ヴェルディ)が「もう二度とやりたくないっすね」と苦笑していた姿が印象的だった。

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