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kaieda

第16回 ドライバーの心

笑顔の人

シーズンが終われば、翌年の開幕までしばらく会えない人がいる。今のうちに会って話を聞いてみたいと思う人がいた。

ドライバーの伊藤春作さんだ。東京ヴェルディの荷物車を運転し、試合があるごとに全国を駆け回る。クラブが契約を結んでいるリース会社に勤め、つまり外注スタッフということになる。

伊藤さん、いつもニコニコしているのだ。クラブハウスからトラックに荷物を積み込みとき、スタジアムに荷物を搬入するとき、楽しそうに仕事をしている。こういう大人っていいよなあ。楽な仕事ではないはずなのだが、それを顔に出さない。

11月11日、J2最終節。ザスパ草津戦の試合前、時間を取ってもらえることになった。荷物の搬入が完了すれば、とりあえず身体が空くのだという。私はトラックの助手席に乗せてもらい、伊藤さんの話に耳を傾けた。

「ヴェルディの荷物を運ぶようになったのは、1999年の後期(当時は2ステージ制だった)からですね。前にいたホペイロの松浦さん(現名古屋グランパス)が専用の荷物車が必要だとクラブに要望して、うちの会社は日本テレビの仕事を請け負っていたから、それで話が回ってきたんです」

それまではダンボールに詰めて宅急便で送っていたため、何かと融通が利かなかったり、一枚ずつ伝票を書くのが大変だったらしい。伊藤さんのドライバー歴は長く、ドラマの撮影機材を運んだり、照明車を運転してきた。

年間どのくらいの距離を走破するんですか?
「えっとね、九州でだいたい片道1200キロ。往復2400キロ。今年は福岡、北九州、熊本、大分と試合があったから、それだけで約1万キロですね。全部足すと……ちょっとわかりません」

1万キロというと、東京からロンドンまで行ってまだお釣りがくる計算だ(こっちは直線距離だが)。とてつもない距離だというのはわかる。だが、漠然と遠すぎて、クルマの運転ができない私には大変さがピンとこない。ついでに地球一周が約4万キロだ。13年半の仕事を経て、伊藤さんは地球を何周まわったのだろう。しかも、ただのドライブではない。荷物を定刻までに送り届ける使命がある。伊藤さんのトラックにはユニフォームやスパイクなど、試合に必要なありとあらゆる道具が詰まっている。もし途中で何かあったら、試合ができない。

「幸いにして事故は一度もありません。パンクは3、4回あったかな。遠征のときは、チームがホテルに到着する1時間前に着くようにしています」

昔から決められた時間は厳守するタチだった。携帯電話がなかった時代、友だちと待ち合わせて約束の時刻から3分過ぎたら、とっとと帰ったそうだ。伊藤さん、3分は厳しすぎるよ!

前泊のホテルでは、基本的にチームと一緒に行動するんですか?
「ラモスさんが監督の頃だから、2006年かな。ある日、食事の時間になったとき『おい、イトウも一緒に食べるぞ』と言ってくれてたんです。それまでは選手の食事が終わったあと、スタッフさんとごはんを食べてました。以降はずっと一緒に。うれしかったですよ。チームの一員になった気がした」

人は美点と欠点を合わせ持つ。エキセントリックな言動で知られるラモス瑠偉だが、こういった開放的なところは本当にいいところだ。気遣いや配慮ではなく、天然のやさしさ、おおらかさがある。

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