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『町田でお待ちだ!』 第7回 FC町田ゼルビアが2013年シーズンから学ぶべきこと

変えないことも立派な選択

もちろんそういうサッカーだからこそ、個が伸びるという側面もある。楠瀬監督代行になって、足を止めずにパスコースを作り、ボールを動かすという攻撃の“ベース”はある程度まで整備された。終盤戦は相手のプレスをいなす、外の幅を使うというプレーも徐々に浸透していたと思う。しかし精度や連携は不十分だったし、悪い流れの時に立て直せるほどの軸にはなっていなかった。加えて攻撃の整備は守備崩壊と引き換えで、失点数は前半戦の「16」から、後半戦は「28」に増えている。攻守のバランスや、タイミングの見極めが未熟だった。

「ブレた」「成熟が進まなかった」ことは、目標を達成できなかった小さからぬ理由だ。ただ、あのまま秋田監督に任せていれば必ず良くなった、昇格できたということではない。クラブの側に立ってみれば、2012年の反省があろう。昨年の町田はアルディレス監督を引っ張ってJ2最下位に沈み、降格の憂き目にあった。とはいえ、アルディレス監督→秋田豊監督→楠瀬直木監督代行という遍歴は振れが大きすぎる。

“変えない”ことも、チームをいい方向に変えるための立派な選択だ。もちろん一定の時間はかかるし、J1のクラブに指導者が引き抜かれたら仕方ない。昨年のようにJ2から降格してしまったら、クラブを去る選手が増えるのも当然だ。ただ人が過剰に入れ替わると、チーム作りの出発点は確実に交代する。長野の主力を見れば在籍6季目の髙野耕平を筆頭に5年目の野澤健一と大橋良隆、4年目の宇野沢祐次、諏訪雄大らが軸になっている。今季の町田も在籍2年目の鈴木孝司、庄司悦大が大きく成長した姿を見せてくれた。来季に向けて残すべき人材を残し、積み上げてきたものを維持することは必須だろう。

2014年シーズンに向けて

とはいえ昇格は決して容易でない。町田の人件費はJ3トップレベルだろうが、明確な差をつけられるほどの額ではない。期限付き移籍などで有望選手を確保できているが、可能性はあっても未熟さを残す場合が多く、補強で圧倒することは望めない。となれば、結果を保証するのは選手の才能でなく、ピッチ内で積み上げた連携だ。長野を筆頭とするライバルをすべて蹴散らし、昇格を実現するためにはサッカーの質を相当レベルまで上げねばならない。

経営的には、Jリーグからの理念推進費5千万円のカットが今季のマイナス材料だ。しかし「昨季も黒字で終わったし、いまの着地点なら(今季も)黒字で終わる」(下川社長)

という堅実性から、町田は昇格できないとすぐ危機に陥るような体質ではない。下川社長は選手の契約継続、補強についても「同じ規模の予算で編成できればいい」と述べている。新監督として相馬直樹氏の名前が新聞紙上で挙がっていることは、皆さんもご存じのとおりだろう。ただこの稿を書いている段階で、交渉は決着していないようだ。クラブは当初、柱谷哲二監督(水戸)の招聘に動いていたが、柱谷氏は水戸との契約を延長。下川社長は11月末に「(楠瀬監督代行が)そのまま続投という考えもある」とも口にしており、交渉の進み次第では現体制の継続もあり得る。

下川社長は「パスサッカーという哲学は変わらない。予算に見合った、でも伸びシロのある選手で、町田をJ1、J2の舞台に持っていきたい」と口にする。Jリーグのレベルが上がった今、10代や20代前半の選手がたやすくプロのピッチに立てる時代ではない。しかし才能の種に根を下ろす場を与えれば、芽が出ることもあるだろう。監督人事が決着していない中で、来季を云々することは拙速かもしれないが――。必要な人材を維持し、方向性を保ち、サッカーの質をしっかり積み上げることこそ、クラブ浮上の道だと私は考える。

(了)

(著者プロフィール)
大島和人(おおしま・かずと) 1976年生まれ。“球技ライター”の肩書で、さまざまなボールゲームを取材(見物?)している。主な寄稿先に『エルゴラッソ』『サッカーマガジン』など。12年にはJ’s GOALのFC町田ゼルビア担当としてJ2初年度の戦いを追い、併せて町田市に転居。今年も引き続き地元クラブの取材を続けている。

2013シーズンのFC町田ゼルビアを追いかけた連載コラム「町田でお待ちだ!」は今号が最終回となります。ご愛読いただき有難うございました。(東京偉蹴FOOTBALL編集部)

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