TOP>>コラム>>OTHER COLUMN>> 『町田でお待ちだ!』 第5回 決戦は12月8日!? ゼルビアが挑むJ2への12試合

『町田でお待ちだ!』 第5回 決戦は12月8日!? ゼルビアが挑むJ2への12試合

7人という人数、FW5名というポジションの偏りについて、楠瀬監督代行は「こんなに取れるとは思っていなかった」と明かす。ここについては想定外の部分もあるようだ。育成畑の楠瀬を見込んだのか、相手クラブからの“逆オファー”で加入した選手がいるという。「名の通った選手を、ピンポイントで獲るのは金銭的にできない。ただ『コイツを育ててくれ』と言ってくれるものは受け入れた」(楠瀬)という経営的な事情がある。

町田が獲得できるのは、所属元のクラブが給与を持ってくれる、格安な契約を受けてくれる選手に限られる。札幌を退団したテレ選手はJ1でもプレー経験のある選手だが「全然こちらが手の届くくらいの、超安い」(楠瀬)という金額で契約に漕ぎつけた。「Jクラブに応援してくれる人がいて、選手が若くて何とかついて来てくれているから、こんな給料でやっている」と指揮官は明かす。つまりクラブが巨費を使ったということではない。“来てくれる選手”を受け入れて、その中で光るものを持つ選手を再生し、生かす――。それが町田のJ2復帰に向けた戦略だ。

若手選手の再生は、クラブの再生

選手の顔ぶれが変わっても、クラブとして揺るがぬ部分はある。

楠瀬監督代行は「DFを獲ったけれど、(深津)康太は常に(中心選手として)存在する」と明言する。更に「J1でやっていたからと言って、町田で(主将の)太田康介に偉そうな口をきいていいのかと言ったら違う。ヤナギ(柳崎祥兵)だってそう」と、人間関係の“順列”を強調する。

「そういう事はちゃんと見ていますってやらないと、バラバラになっちゃう」(楠瀬)という危惧はやはりあるという。だからこそ各選手とは面談の時間を持ち、それぞれ「緻密に話をした」(楠瀬)。中には2日越し、3日越しで話をした選手もいる。

町田にいるのはJリーグに進めなかった選手、Jリーグから落ちてきた選手だ。楠瀬監督代行の言葉を借りれば「若くしてJに何とか入った。だけど周りの大人にチヤホヤされてクビになった」「下手じゃないけど、タイミング合わず仲間に越されて、自分に劣等感を感じながらJFLにいる」という挫折を味わった若者たちである。そういう燻った才能の自信を呼び戻し、責任感を植え付け、頑張る喜びを覚えさせる――。「頑張ることがカッタルイじゃなくて、カッコイイとなる」(楠瀬)ことが、即ち若手選手とクラブの“再生”への足がかりだ。

彼らが本来持ちうる力を取り戻せば、昇格に向けて大きな力になるだろう。例えば白谷建人は国見高から加入したセレッソ大阪で、高卒1年目から出場機会を得ていた選手。香川真司、乾貴士、柿谷曜一朗らと競い合っていた逸材だった。楠瀬監督代行が“再生プロセス”の好例として挙げるのが庄司悦大。「最近ガーッと動き出して、自分で『それがかっこいい』と思えるようになってきた」とその成長を認める。

J2・JFL入れ替え戦は第1戦が12月1日、第2戦は12月8日に予定されている。戦力は十分過ぎるほどに揃ったし、人材を生かすためのイメージ、取り組みもある。問題はそれがピッチの中で実るかどうか--。答えを確かめるJFLのリーグ戦10試合、もしくは入替戦も含めた12試合が始まるのは9月14日。アウェイ都田で開催されるHonda FC戦だ。

(了)

(著者プロフィール)
大島和人(おおしま・かずと) 1976年生まれ。“球技ライター”の肩書で、さまざまなボールゲームを取材(見物?)している。主な寄稿先に『エルゴラッソ』『サッカーマガジン』など。12年にはJ’s GOALのFC町田ゼルビア担当としてJ2初年度の戦いを追い、併せて町田市に転居。今年も引き続き地元クラブの取材を続けている。

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