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『町田でお待ちだ!』 第3回 楠瀬直木監督代行の下で再出発するゼルビア

目先の結果にこだわらず、結果を手に入れる

楠瀬はスポーツ科学を軽視する指導者ではない。怪我が完治していないことを隠して大事な大会に出場しようとした選手を、怒ってホテルから家に帰したこともある。一方で「やれるなら限界までやらせる」のも、彼のスタイルだ。日本のサッカー界は選手に出し切らせていないという不満は、彼がよく口にすることである。常識外れの日程は子供たちを駆り立て、出し切らせるためには最高の条件だということが、彼のポジティブさの真意だろう。

彼は勝負にこだわらないからといって、勝てない指導者ではない。「目先の結果にこだわらない戦い方が、実は結果を手に入れる近道」という言い方もできる。リスクを取る、チャレンジすることで選手のモチベーションは上がり、臆病さが消える。トライ&エラーの機会を増やすことで、若者の実力は増す。各々は自分の特徴、チーム内での立ち位置を知り、自然と役割分担が生まれていく--。彼がよく口にする「ちゃんとサッカーをする」とは、そういう意味だろう。そうやって楠瀬は2010年、東京Vユースを5年ぶりのクラブユース選手権制覇に導き、翌年は杉本竜士率いるチームで連覇を果たした。

連覇の立役者である杉本竜士、南秀仁のゼルビア入り(期限付き移籍)が7月10日に発表されている。「中盤からドリブルで持ち出せる選手」は楠瀬が強化部長時代に語っていた補強ポイントだが、それが杉本を意味することは“言わずもがな”だった。私が初めて彼の噂を聞いたのは彼が中学1年の頃と思う。JFAエリートプログラムのメンバーに選出され、練習試合で「JFAアカデミー福島から5点取ったヴェルディのFWがいる」という衝撃情報だった。中2春のナイキプレミアカップから彼のプレーは何度も見ているが、一言でいえば“切れ切れのドリブラー”である。

杉本の特徴は激しい気性だ。試合に入りすぎる、頑張りすぎるところは欠点とも言い得る。周りが見えなくなってプレーが強引になったり、余計なカードをもらったりという傾向が当時は顕著だった。中2のナイキプレミアカップ決勝で敗れた時はこの世の終わりとばかりに激しく慟哭していたし、東京都サッカートーナメント決勝の後は過呼吸になって確か救急車が呼ばれた。高3のクラブユース選手権準決勝の試合後は、ピッチサイドで吐いていた。そういう彼を受け入れ、持ち味を引き出していたのが楠瀬直木だった。

FC町田ゼルビアは7/7(日)の藤枝MYFC戦で破れ、楠瀬監督代行は2戦未勝利とまだ結果に恵まれていない。自覚を待ち、持ち味を自然と引き出す指導が結実するには時間もかかるだろうし、カマタマーレ讃岐やAC長野パルセイロに追い付くのはかなり困難なミッションだ。しかしそのプロセスは、きっと見届ける価値がある。7/14(日)の対戦相手は、横河武蔵野FC。2010年8月28日、楠瀬直木監督率いる東京Vユースが南秀仁や杉本竜士の活躍で破ったチームだ。

(了)

(著者プロフィール)
大島和人(おおしま・かずと) 1976年生まれ。“球技ライター”の肩書で、さまざまなボールゲームを取材(見物?)している。主な寄稿先に『エルゴラッソ』『サッカーマガジン』など。12年にはJ’s GOALのFC町田ゼルビア担当としてJ2初年度の戦いを追い、併せて町田市に転居。今年も引き続き地元クラブの取材を続けている。

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