#8 最優秀育成クラブが求めるもの
練習は緊張感の中にリラックスした空気も
トップチームで即通用する人材を育てる。この目標を達成するために、ヴェルディユースは高い意識で日々のトレーニングに励んでいる。一本のパスやシュート、球際の激しさなど、質の高さが伺える。だが、練習の雰囲気自体はなごやかで、笑い声さえ聞こえてくることがある。冨樫監督が率先してそういう雰囲気を作っている。
チームのムードメーカー、かつ得点源でもあるFW高木大輔は指揮官についてこう語る。「あまり怒らず励ましながら接してくれます。盛り上げる時も茶化すじゃないですけど、僕らがやりやすい雰囲気を作ってくれている」
緊張感は維持しながらも、その中でリラックスした空気も醸し出すのが冨樫監督なのかもしれない。そういった空気が、選手間の要求度合いをも高めている。高木の言葉を借りる。 「今年のチームは言い合える。年齢に関係なく要求しあえるのは、去年以上かもしれない」
こうしたチームの雰囲気の良さと、高い意識で臨むトレーニングが、プレミア独走の要因なのだろう。とはいえ、頭一つ抜けた実力を持つ東京Vユースも、ここまで2度の引き分けを経験している。とりわけ、三菱養和SCユース戦は激戦だった。
先制を許し、怒涛の攻撃を仕掛けるもゴールが遠い。互いに切磋琢磨しながら歴史を築いてきた両チーム。冨樫監督も「負けるなら今日かな」と覚悟したが、最後は東京Vユースの猛攻が実を結び、引き分けで終えることができた。冨樫監督は、試合を振り返ってこう話す。
「こういう相手に対して、崩して勝つことがプロには必要。成長できる一つのきっかけになる試合だったと思う」
トップチームで通用する、という目的の下でトレーニングを重ね、同年代の相手をなぎ倒すことで得るものがある。一方で、苦戦を強いられた経験が彼らの血肉となり、更なる成長に繋がることもある。養和ユース戦は、まさにそんな試合だった。
この日、同点ゴールはFW菅嶋弘希が押し込んで生まれたものだった。しかし、2トップを組んだFW前田直輝にとっては悔いの残るゲームだった。再三のシュートチャンスを決めきれずにいた。そして後半、シュートを外すとピッチに突っ伏して悔しさを露わにした。決めきれない自分への苛立ちが、見ていても痛いほど伝わってきた。しかし、もしプロのストライカーならば、ほんの一瞬悔しがっても、すぐに次のプレーに頭を切り替えたのではないか。試合後、前田と話していた冨樫監督にその場面のことを問うと、こう返ってきた。
「気になったのはシュートミスじゃなくて、ミスの後、寝っころがったりしていたところ。次もう一回というところをやっぱり見たい。一発で決められる精度を持つことが一番の優先順位としても、うちのFWはそういう立ち居振る舞いも大事にしています」 感情の発露は大事な要素だ。それだけゴールへの渇望が強いということ。だが、それを抑制しつつ必要な場面で解き放つことが、一段上のストライカーになる為には必要だ。
何人がトップに昇格し、そして活躍できるか
現在、中島の他に、GKポープ・ウィリアム、DF吉野恭平がトップチームの練習に参加している。プロとの差を痛感しながら、それに抗い、乗り越えようとしている。その先に目指す場所が待っている。この3人以外にもチャンスはあるだろう。ただし、それを掴めるかは自分次第。トップチームから求められる要求は高い。中島にしても、この世代屈指の能力を備えながらトップチームでの出場機会はまだ得られていない。J2で首位争いを繰り広げているチームの好調ぶりもあるが、そこで試合に絡める選手をクラブは求めている。
冨樫監督に率いられた選手達の中から、来シーズン果たして何人がトップチームに昇格するのだろうか。だが、そこはゴールではなく新しいスタートラインだ。そのことを常に念頭に置きながら、進化して欲しい。そうすれば、ユース年代のタイトル獲得はもちろん、トップチームにも必要とされる選手になれるはずだ。
(了)
(取材・文 青木務)