#5 2012シーズン序盤を振り返る~FC東京・前編
その勢いは、今年の元日の天皇杯戴冠によって出場権を得たアジア・チャンピオンズリーグ(以下ACL)初戦から、もたらされたとも言える。3月3日にゼロックス・スーパー杯(柏に1-2で敗戦)を戦った3日後というハードな日程だったが、フィジカルを活かした戦いをするブリスベン・ロアー相手に、降りしきる雨の中で2-0と勝利している。
序盤に試合が多く組まれたゆえ、多くの選手の補強を図ったチームにとって、実戦でコンビネーションを積み上げる機会が増える好循環となった。また、その試合数がチーム内での競争意識をより一層激しいものとした。長谷川アーリアが名古屋戦後、こんなコメントを残している。
ACL参戦による過密日程の乗り越える策は
「監督はレギュラーを固定するのではなく、コンディションのいい選手を使います。日々の練習から見られていますから。」
いい意味での緊張感を持つことで、一人ひとりのプレーへの集中力が磨かれる。小平での毎日が序盤戦の好スタートをもたらしたと言っても過言ではない。
そんな順風だったFC東京、スタイルの確立と少々の課題が散見し始めたのが、3月20日のACL第2節・蔚山現代戦だった。前半37分にDF徳永悠平の華麗なループシュートで先制しながらも、後半35分に単純なカウンターで同点に追いつかれる。それでも直後の37分に、『ポポヴィッチ・スタイル』が具現化されたショートパスでの中央突破から、最後は梶山がフィニッシュして2-1。試合を決めたかに思われた。しかし89分にオフサイドトラップの掛け損ないから、ゴールを割られてドローに終わってしまった。
「ある選手は、試合が終わってもいないのに『勝った』と思っていたんじゃないか!そこに納得ができません。結果は引き分けでしたが私はこの試合をあえて『敗戦した』と表現します。」
試合後、ポポヴィッチ監督が会見で不満をぶちまけた。それと同時に、自らが掲げるサッカーに対してのプライドもチラリと見せる。 「それでも、内容は悲観するものではない。最初のプラン通り、我慢強く走り勝とうとしたのは我々でした。この戦いを継続することがまず大切です。その上で、勝ちゲームを落としていかないようにしないと。」
この試合では、膝の前十字靭帯断裂から復帰してきたMF米本拓司が先発出場を果たしている(61分に途中交代)。 「すごく緊張したけど、これからもっと練習していけば。ケガする前のピークだった状況に少しでも早く持っていきたいです。」
石川や羽生、ルーカスといったベテラン勢の円熟、そしてMF高橋秀人、GK権田修一らの中堅~若手が自信をつけてプレーする。そんな『ファミリー』の選手たちがポポヴィッチ監督が掲げる積極的なスタイルを体現。昨シーズンのJリーグチャンピオン・柏に続いて、J2から昇格した首都クラブが、2012年の日本サッカーを席巻する。そんなポジティブな状況のはずだった。
しかし、3月31日のJリーグ第4節・サンフレッチェ広島戦から、その流れは停滞してしまう事となった――。
(了)
(取材・文 佐藤匠司)
~後編に続く~