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第10回 二十歳の原点

苦悩の季節

5月某日、午後2時、東京ヴェルディの練習場。トレーニングが始まる前、選手たちは思い思いに過ごしている。リフティング、ボール回し、芝に寝そべって談笑。初夏の柔らかな陽ざしを浴びて、ゆったりした時間が流れている。

ひとり、グラウンドの隅っこでストレッチを行い、入念に身体をほぐしている。集団に背を向け、一心に自分と向き合っている。ただならぬ情念が、丸めた背中から立ち上っている。

小林祐希だ。今年の春、20歳になった。

現在、小林は苦しい季節にある。スタメンとサブのボーダーライン上におり、確固たるポジションを掴めていない。10番だ。しかもキャプテンだ。その立場に甘んじていられないのは本人が一番わかっている。

今シーズンのすべり出しは上々だった。開幕スタメンに名を連ね、2試合連続でゴールを決めた。変わり目は第9節の湘南ベルマーレ戦だった。76分、途中交代を命じられ、チームは1‐2で敗れた。以来、サブとスタメンを行き来している。それでも、第17節終了時点で16試合3得点の数字は、決して悪いものではない。

小林がスタメンを外れたのは妥当な判断と思えた。中盤の底で攻守のつなぎ役となり、時には前線に進出し決定的な仕事をする。これが小林に課せられた役割である。だが、思ったようにパス回しに絡めない。少ない機会で一撃必殺のスルーパスを狙おうとし、余計なボールタッチが増える。全体のリズムに支障をきたす。攻撃が停滞する。さらにボールが集まりづらくなる。その悪循環だった。ボールにたくさん触ってリズムを作っていく選手だけに、これでは厳しい。

「責任を背負いすぎ、余分なことまで悩んでいる。それが小さなミスや判断の遅さなど、良くない影響として出ている」と川勝良一監督は言う。指摘はその通りなのだろうが、看板選手となった責任や周囲の期待の大きさを思えば無理もないところだ。フラットな状態で臨んだほうがいいと頭ではわかっていても、そうあっさりと荷を降ろせるものではない。人間の頭はそれほど便利にはできていない。

現状、東京ヴェルディの中盤の布陣は、和田拓也と梶川諒太のダブルボランチ、右のサイドハーフに西紀寛、左のサイドハーフに飯尾一慶。これがベストの組み合わせである。小林の攻撃センスと強烈なミドルシュートを最大限に活かすなら、従来のボランチではなく2列目の起用も考えられるが、チームの軸となっている西と飯尾はどちらも外せない。では、一度試したFWでの起用に再チャレンジするか。だが、阿部拓馬と杉本健勇の2トップがようやく形になってきたところで、余計なリスクは負えない。

このように選択肢は限られている。当面は誰かが欠場した時や途中出場で結果を出し、一角を崩していくしかない。自分に何が足りないのか。チームのなかで他者を生かし、自分が生かされるために何をすべきなのか。自問自答の日々にある。

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