第5回 サッカー選手の歯は語る
歯医者との不運な関係
人との出会いにおいて、私はわりかし幸運に恵まれているほうだと思うが、歯医者さんだけは巡り合わせが良くない。20代から30代にかけて、虫歯の治療のためいくつかの歯科医院を渡り歩いた。
ある歯科医は初見でこう言った。
「あーあ、こりゃひどいな。ヤブにかかりましたね」
次に診てもらった歯科医はこう言った。
「雑な治療だ。痛かったでしょう。お気の毒に」
病院を渡り歩くたびにそんなことを聞かされ、またか、またなのかと気分が沈んだ。
別の歯科医はこんな提案をしてきた。
「思い切って金歯を入れてみてはいかがでしょう。堅いだけの銀歯と違い、柔軟性のある金属ですから使用感がいいですよ」
にかっと笑ったとき、口の奥にギラリと光る金歯。思い浮かべただけで、目の前が真っ暗になった。ただでさえモテないのに、そんなことをしたら完全にアウトだ。
「ちなみに、おいくらですか?」
「10万円です。保険がきかないので」
「……そんなお金はありません。保険内の治療でお願いします」
すぐさまそこを見切り、別の歯医者さんを探したのは言うまでもない。
現在、私は2年ぶりに歯の治療に通っている。そこはきちんと治療方針を説明し、保険外治療を勧めてくることもない。今度こそはと信じている。
そんな私がひょんなことから、都内で歯科クリニックを営む医師と会うことになった。三井清さん(仮名)は、6年前からあるJクラブの定期検診を請け負い、そのつながりで多くのサッカー選手の歯を診ている。
近年、アスリートが発揮するパフォーマンスにおいて、歯の噛み合わせが重要であることは周知が進んでいる。はたして、どれほどのサッカー選手がそれを意識して生活しているのか。アスリートならではの特別な治療が施されるのか。この機会にいろいろ聞いてみたいことがあった。
まずは一般論から。
「生まれたときからきれいに整っている歯並びの人は全体の3%しかいません。どこかしら不具合を抱えるのが自然です。親知らずが真っすぐ生えている人は50%。親知らずに関してはデメリットしかありません。歯ブラシが届かず、虫歯になりやすいので抜いてしまったほうがいい」