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第5回 サッカー選手の歯は語る

ふむふむと三井さんの話に耳を傾ける。では、サッカー選手の場合、歯並びが悪く、噛み合わせに問題があるとすれば、どういった影響が出るのだろうか。
「身体のバランスに現れますね。歩いているところを見ればすぐに分かりますよ。両肩を結ぶ線が左右どちらかに傾いているから」

三井さんは日本人だけではなく、ブラジル人選手の歯も知る。かつて浦和レッズや東京ヴェルディで活躍したワシントンをはじめ、Jリーグで実績を残した選手は皆きれいな歯並びをしており、またケアの意識が高かったという。

歯は選手寿命に影響する

「人間の歯は親知らずを含めて32本あり、1本くらい抜けていてもプレーに差し障りはありません。ただし、そのまま放置しておくと危険です。ほかの歯が傾いたり、悪い影響が出てくる。いるんですよねえ。とりあえず痛みが去ったことに安心して、治療をやめてしまう選手が」

治療を勝手に中断するのが最もマズいのだそうだ。いったん削った歯は強度がガクンと下がっている。途中で投げ出すくらいなら、むしろ最初から一切手を入れない方がいいという。

三井さんは歯科医の仕事を通じて、サッカー選手のさまざまな横顔を見てきた。歯のことにまったく無頓着な選手がいれば、一見、ちゃらんぽらんな態度に見えながら、根気強く治療に通い、完治の日にサイン入りのユニフォームをプレゼントしてくれた選手もいた。

噛み合わせに問題がある選手には、歯科矯正のほかにマウスピースをあつらえ、対処するケースもある。口内の異物感に慣れるまで辛抱が必要で、長続きする選手は少ないらしい。

「歯のケアを怠らない選手のほうが、明らかに選手寿命は長い。プロとして最低限の仕事だと思ってほしいです。いつでも手遅れということはありませんので、選手の方々は自分の歯の状態を一度きちんと確認してみては。現状を見渡すと、より一層の啓蒙と教育が必要だと感じます」

三井さんは年に数回の頻度でスタジアムを訪れる。特定のクラブを応援するスタイルではなく、以前来院した選手のプレーを観るのが楽しみだ。彼らの活躍が仕事の励みになる。

「サッカーについてはド素人です(笑)。選手と知り合うまで、サッカーとの関わりを持ちませんでしたから。彼らのおかげで世界が広がりました。いつもメインスタンドやバックスタンドで観戦しているのですが、いつかゴール裏に行ってみたいですね。一度でいいからあそこの雰囲気を味わってみたい」

(了)

(著者プロフィール)
海江田哲朗(かいえだ・てつろう)
1972年、福岡県生まれ。獨協大学卒業後、フリーライターとして活動。東京ヴェルディに軸足を置き、日本サッカーの現在を追う。主な寄稿先に『季刊サッカー批評』『週刊サッカーダイジェスト』『週刊サッカーマガジン』『スポーツナビ』など。著書に東京ヴェルディの育成組織を題材にしたノンフィクション『異端者たちのセンターサークル』(白夜書房)。

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