TOP>>コラム>>column ほっつき歩記>> 第19回 物語はどこまでも
kaieda

第19回 物語はどこまでも

それって飽きませんか?

3月2日、J1開幕。次いで3日、J2も開幕した。ついにサッカーシーズンの到来だ。

ずいぶん待たされた気がする。それもそのはず、昨季、私の応援する東京ヴェルディは11月初旬にプレーオフ圏外が確定し、天皇杯も3回戦で敗退していたため、蚊帳の外に置かれる期間が例年以上に長かった。オフを含めると、実質4ヵ月である。年の3分の1だ。J1昇格プレーオフを取材したり、ユースや大学サッカーの試合に足を運んだりしたけれど、東京Vの試合とは向き合い方が違う。気の抜けた日々が流れ、大半を怠惰に過ごしてしまった。

開幕を目前に控えていたとき、取材の現場でよく会うふたりの人から同じようなことを訊かれた。

「Jリーグが始まるのは楽しみですけど、週末の試合で勝った負けたと一喜一憂し、練習を見て、また次の試合に向かう。このルーティン、正直飽きませんか?」

私は、全然飽きないよ、と答えた。本心だ。飽きないから十数年もこの仕事をやっていられる。前々から仕事上の窮屈さ、変化の乏しさは感じている。だが、それは自分の責任だ。一点突破のつもりで東京Vに居場所を定めたまでは良かったが、ずんずん入り込んでしまい仕事が限定的になり過ぎた。サッカーがより魅力的な取材対象となるように、フィールドワークのエリアを外に拡げていかなければいけない。そうすれば、また違った面白さを発見できるだろう。

飽きない理由で思い当たることがある。それは、東京Vが育成に重きを置いたクラブだからだ。将来の有望株はジュニアユースあたりからチラホラ名前を聞き、ユースで実際にプレーを見るようになる。私は観戦者であり、指導者の眼を持たない。監督から要チェックだよと聞いていても、その選手のどこが優れているのか、皆目見当がつかないことがある。そこは無理をせず、わからないとしておく。わかった気になるのは愚の骨頂。さっぱりわからないけど、どこか光るものがあるのだろうと記憶の小箱に入れておく。

若い選手は完成品ではないから、パフォーマンスにムラがある。気持ちが切れてまったくダメなときがあれば、時折、うわっと思わず声が出るような鮮烈なプレーを見せる。その瞬間の輝きを忘れず、頭の隅に留めておく。

そうしていくと、けっこうな量の情報が蓄積され、トップ昇格以降、あるいは大学に進学してから先、どんな選手になるのか追跡する楽しみが出てくる。この作業には切れ目がないのだ。次から次へと新しい選手が現れる。もし、トップと育成が分断されているクラブだったら、私は定点観測に飽きていたかもしれない。それはラッキー以外の何ものでもない。2001年、東京Vに足を踏み入れた当時は、育成のことなんてほとんど何も知らなかったのだから。

昨今は、選手の移籍が活発になり、のんびり構えていられなくなった。成長曲線がぐぐっと上向くのは3、4年先かと悠長に見ていたら、トップでプレーするようになってから2年も経たずに移籍してしまうことがままある。そこには選手を売って利益を確保せざるを得ない、東京Vの経済事情も関係している。よって、できるだけ長くプレーを見せてほしいと願えど、変わらない明日が約束されているとは考えない。その分、観戦する側にはちょっとした緊迫感がある。いつ何があってもいいように、ちゃんと見ておこうと思う。

◆前後のページ | 1 | 2