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#11 緑のDNAを持つスフィーダのアタッカー


泥臭くとも確実にゴールを陥れる

スフィーダ世田谷FC・川邊健一監督が志向するのは「非セオリー」のサッカーだ。ポゼッションで主導権を握り、攻撃回数を増やしていきながらも、ヒールキックなどトリッキーなプレーを織り交ぜることで、相手の裏をかいていく。これを実現するには個々の技術だけでなく、選手間のイメージの共有が不可欠だ。日々の練習の中ですり合わせていくことで、本番で成果が得られる。まだまだ発展途中ではあるが、ハマった時の美しさは見る者を魅了している。

長澤はサイドバックでも起用されるが、基本的には前線の選手だ。リーグ戦では第13節から3試合連続で合計5ゴールを挙げるという圧巻の働きを見せている。印象的なのは第15節・ジュブリーレ鹿児島戦でのゴールだ。

右サイドからのクロスを相手ディフェンダーがクリアミス。このボールに素早く反応した長澤が、滑り込みながらシュートを放つ。ふわりと浮いたボールは、相手GKの頭上を超えてゴールへと吸い込まれた。泥臭くても得点を奪うプレーは、長澤の持ち味でもある。

「一対一で抜いてシュートみたいな恰好いいゴールより、今日みたいにスライディングとかで決める方が得意なんです」 献身的なランニングや、形にこだわらずゴールを目指す姿勢は、フォア・ザ・チームを体現していると言える。鹿児島戦のゴールは、長澤らしさが発揮されたものだった。

そんな彼女に、好きな選手や目標とする選手について聞いてみた。なでしこジャパンやバルセロナの選手が人気だが、長澤はどれにもあてはまらなかった。 「特にいないです。サッカーはよく見ていますけど、色々なチームや選手を見て、その中で自分に合うプレーがあったら参考にすることはあります」

誰かのコピーではなく、オリジナルを築いていく。最近はフォワードとして楔を受ける役目も担っているという。だが、それに固執し過ぎるあまり、本来の持ち味である裏への抜け出しのタイミングが遅れることもあった。長澤自身も、スフィーダでまだまだ成長途中だ。試合後は課題を口にすることも多い。

2010年、U-17女子ワールドカップで日本は世界2位になった。長澤も、トリニダード・トバゴの地で銀メダルを受け取った一人だ。今年8月のU-20女子ワールドカップには、2年前のメンバーが多数選ばれている。長澤は地元開催の大会をテレビで見ていた。もちろん悔しい思いはある。「凄いですよね」とヤングなでしこの活躍を思い返していた。だが、内に秘める想いもこぼれた。

「負けたくないです」

かつての仲間達は、世界の舞台で鮮烈な活躍を見せた。長澤も立ち止まっているつもりはない。負けたくない。柔和な笑顔から覗いた強い気持ちが、彼女の糧となる。

(了)

(取材・文 青木務)

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