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#6 2012シーズン序盤を振り返る~FC東京・後編

そんなFC東京が息を吹き返すきっかけとなったのは、ACLだった。5月2日の第5節・国立でのブリスベン・ロアー戦に4-2で勝利してベスト16を決めると同時に、公式戦連敗をストップする。すると続く5月6日のアウェー・新潟戦を2-0、同12日の札幌戦では梶山の右足アウトサイドでフリックした“意外性のある”ビューティフルゴールを守り切り、連勝を飾る。取り戻した勢いは本物かどうか。試金石となったのは鳥栖戦、浦和戦のホーム2連戦だった。

今季ベストゲームと言われた5/26浦和レッズ戦で見せたチームの底力

攻守の素早い切り替えに、非常に素早いショートカウンター。ユン・ジョンファン監督率いる鳥栖の一貫した戦いに、FC東京は後半14分までで0-2のビハインドを追う。スタジアムには広島戦、清水戦と同じ諦めムードが漂ったが、足が止まった事もあってリトリートを選択した鳥栖に対し、FC東京のアタックが一気に牙をむいた。

途中出場の石川が守備網を切り刻み、同じく途中出場のFW渡邊千真がフィニッシュを決め続ける。後半30分、36分、そして43分と立て続けに生まれた3ゴール。スぺクタクルな逆転勝利に、味スタは熱狂の坩堝(るつぼ)と化した。その数、25,803人。気付けばホーム開幕戦と比べて4000人の増加である。ポポヴィッチ監督は試合後の会見で、上気した表情で語った。

「ファン、サポーターに今年一番のプレゼントをお返しできたのではないかと思う。両チームとも良いところを出し尽くしたゲームだったが、私は胸を張って『サッカーが勝った!』と言いたい。」

この試合には、選手たちも納得の表情だった。高橋はこのように語った。 「0-2から3-2にできたことは、広島戦などの0-1で終わってしまったところから成長できた自負はありますよ。」

ちなみに高橋は、この前後の試合の活躍をザッケローニ監督に認められ、日本代表にも選出される。W杯アジア最終予選での出場はなかったものの、親善試合・アゼルバイジャン戦では後半から途中出場を果たし、代表デビューを飾った。また権田も第3GKとして帯同、MF長谷川アーリアジャスール、DF徳永悠平もアゼルバイジャン戦までは招集されるなど、国内組としては“最大派閥”のクラブとなった。

ただポポヴィッチ監督は、浦和戦を間近に控えた小平の練習で、そんな代表組に、そしてチーム全体に喝を入れるように、怒声を響かせた。 「4月の代表合宿から帰ってきて以降、チームは下降曲線に入った。前回のような事にならないように、今日は目を覚まさせましたよ(笑)」

その良い緊張感の中、浦和レッズを味スタに迎えた5月26日。1-1の引き分けに終わったとは言え、今季のFC東京、いやJリーグ全体を見た上でもベストゲームだったと言っても過言ではない。

浦和のゆったりとしたパス回しとカウンターに対し、FC東京は徹底したショートパスとスピードアップする攻撃で対応。お互いの良さを出し切った試合は、89分にマルシオ・リシャルデスに先制ゴールを許したものの、直後の後半アディショナルタイム、右CKを森重がヘッドで合わせて同点ゴール! 33,836人に上る、両クラブのサポーター達が醸し出した雰囲気の中での好ゲームは、首都クラブらしい矜持に満ち溢れたものだった。

試合後、森重は前を向いてこう言った。 「勝てなかったけど、サッカーを楽しめています。」

フットボールはもちろん、結果が最重要視されるものだ。しかし、娯楽があふれている首都でより光り輝くには、勝利以外のエンターテイメントを発露しなければならない。その発露の原点となる選手達から発せられた『楽しめている』のキーワード。それはきっと、ファンやサポーターにも浸透するはずである。

続く30日のACLのベスト16では広州恒大に0-1で敗戦してしまい、アジア王者への道は絶たれた。しかし、過密日程からの解放とポジティブに考えれば、決して悪いことではない。ポポヴィッチ体制1年目のチームは、J1再挑戦とは思えないほどのエナジーを抱えて、中盤戦以降に挑む事となる。

(了)

(取材・文 佐藤匠司)

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