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第9回 サッカーライター

正論を振りかざして悦に入る厚顔さを持たず、他者の欠陥や落ち度をあげつらって自己を埋めるタイプでもない。彼はそんな書き手のひとりである。最高のノンフィクション本に『シャドウ・ダイバー 深海に眠るUボートの謎を解き明かした男たち 』(ロバート・カーソン/ハヤカワ文庫)を挙げ、「あんなのが一冊書けたら死んでもいい」と言った。

淡いものとなっていく

住宅街の灯りが、ふたりの歩く道をぼんやり照らす。じきに下り坂が終わり、平坦な道に入れば駅まで10分もかからない。

「やや小腹が空きましたね」と私。
「そこのコンビニ寄ってきましょうか」と彼。

私はアメリカンドッグをほお張りながら、ほかの人には決して言わない愚痴めいたことをこぼす。

「編集者が直し入れる際、勝手に語尾をちょちょいとイジられると困りますよね。ちゃんと考えてやってくれる人はいいとして、意図的ではない『○○である』が連続したりすると、バカみたいになっちゃう。おかしなところがあったら『このへん、わかりにくいよ』と言ってくれれば、こっちですぐ直すのに」
「そうなんですよね。ひとつ語尾をイジったら、前後をそれに合わせて直さなければいけなくなる」
「なんか気持ち悪くて」
「誰も気に留めていないとしても」

そうして、仕事やサッカーの話をしながら新田間川沿いを行き、横浜駅に到着。「じゃ、またどこかで」と別れた。

今後、何らかの形で交流が続いたとしても、関係は淡いものとなっていくだろう。私たちは隣同士でサッカーを見るとき、言葉をピッチに反射させ、互いを知ってきたように思う。そこで、多くの言葉は必要なかった。同じ場面で笑えば、だいたい一緒のことを考えているとわかった。意見が分かれることも多々あったが、それはそれでおもしろく感じられた。

「これで最後というときは言いますから」

そう聞いてから、しばらく経つ。タイミングが合わなかったとしても、わざわざ連絡するほどのことではなく、そのうち知ることになるのだろう。

やがて、私は誰かと心地よくサッカーを楽しむ機会を失う。ただ、それだけのことである。

(了)

(著者プロフィール)
海江田哲朗(かいえだ・てつろう)
1972年、福岡県生まれ。獨協大学卒業後、フリーライターとして活動。東京ヴェルディに軸足を置き、日本サッカーの現在を追う。主な寄稿先に『サッカー批評』『週刊サッカーダイジェスト』『週刊サッカーマガジン』『スポーツナビ』など。著書に東京ヴェルディの育成組織を題材にしたノンフィクション『異端者たちのセンターサークル』(白夜書房)。

海江田哲朗 東京サッカーほっつき歩記は<毎月第1水曜日>に更新します

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